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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第三章

夏虫~新選組異聞~ 第三章 第七話 正念場・其の参

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(古高俊太郎への尋問で一部暴力的シーンがございます。できるだけ表現を柔らかめにしたつもりですが、その点ご了承くださいませ。)





風の強い火に火を掛け、京都を火の海にする----------忠蔵の自白を伝えに来た島田の言葉に、土方も沖田も愕然とする。

「副長助勤以上の幹部全員を招集しろ!これから臨時幹部会を開く!」

 土方の命令に沖田はすぐさま副長室を飛び出した。そして忠蔵の自白を伝えに来た島田に対して平隊士達に屯所待機をするように伝えろと指示を出す。

「巡察の組は?確か谷隊と井上隊が帰ってきたら斉藤隊と藤堂隊に巡察予定が入っていますが。」

 島田の至極当たり前な問いに土方は少し考えた後、きっぱり口にする。

「・・・・・・仕方ねぇ。今夜は無しだ。ただでさえ怪我人や病人が多いんだ。いざ出動となった時、頭数も揃わねぇんじゃ話にならん!」

 もしかしたら今日、長州浪士達の大きな会合が予定されており、即座に出動することになるかも知れないのだ。桝屋喜右衛門がどんな自白をするか判らない今、できるだけ多くの兵力を投入できるよう準備しておくに越したことはない。

「承知!」

 土方の指示を受け、島田は平隊士達に土方の命令を伝える為その場を離れた。




 そして四半刻後----------屯所中の平隊士達が武器や防具の手入れをしている中、巡察に出ていた谷や井上が帰ってくるのを待って幹部会が開始された。

「・・・・・ということは、一刻も早く桝屋喜右衛門を捕縛に向かった方が良いのではないでしょうか?」

 土方から忠蔵の自白内容を聞いた武田が近藤に対して申し出る。だが、それを止めたのは土方であった。

「この時間じゃどこか外で会合を開いてる可能性がある。さっき監察に桝屋が自宅に確実にいることが判り次第頓所に連絡するように伝令を走らせた・・・・・それまで待つ。」

 確かに武装した新選組隊士が自宅近くで構えていたら帰ってくるものも帰ってこないだろう。今回は絶対に失敗は許されない。桝屋が自宅に帰ってきた時を狙って確実に捕縛する----------土方の提案に試衛館出身の幹部は勿論、谷や武田もその提言に納得した。

「監察からの知らせは間違いなく夜四つは超えるだろう。それまでできるだけ身体を休めておけ・・・・・『責め問い』は長丁場になるだろうからな。」

 土方の『責め問い』の言葉に本気を感じ、その場にいた幹部達の表情に緊張が走った。



 休んでおけと言われたにも拘わらず、沖田は寝ようとはしなかった。否、眠れないと言った方が正しいだろう。いつ、監察の知らせが来てもすぐ対応できるように、幹部全員局長室、副長室に詰め、身体を横にしていたが、変な緊張感が漂っているせいか、目ばかり冴えてしまって一向に眠れない。高揚感に囚われ眠りにつけない自分とは対照的に、高いびきをかいてすでに寝てしまっている武田や原田の度胸を沖田は恨めしく思えた。

「・・・・・眠ろうにもなかなか眠れないものですね。」

 とうとう沖田は寝るのを諦め、他の者達の邪魔にならないよう、床柱に寄りかかっていた斉藤に小さく声を掛ける。

「・・・・・ああ。確かにそれは言えるな。」

 どうやら斉藤も眠れなかったらしい。切れ長の目をうっすらと開けて斉藤が沖田に返事をした、その時である。ぱたぱたと草履の軽い音と共に何者かが局長室の庭先までやってきたのだ。

「川島か?」

 足音が聞こえた瞬間、寝ずの番をしていた土方が庭先にやってきた人物に声を掛ける。

「はい。先程桝屋喜右衛門が自宅へ入りました。しかし、我らの動きを警戒してか、他の不逞浪士は戻ってきていないようで・・・・・。」

「構わん。雑魚二人を捕縛した時点で桝屋喜右衛門本人が店を捨てて逃げ出す可能性だってあったんだ。店に帰ってきただけこっちとしちゃありがてぇ。」

「・・・・・ってことは、桝屋には『逃げ出せない事情』があるって事ですか?」

 土方と川島の会話に我慢できなくなった沖田が話に割り込み、土方に尋ねる。

「・・・・・だろうな。やっこさん、長州との書き付けだけじゃなく武器も隠し持っているかも知れねぇ・・・・・おい、武田!原田!とっとと起きろ!」

 土方の一喝に今までいびきを掻いて寝ていた原田と武田がぱっと起き上がる。

「しっかり仮眠を取っていたのはおめぇらくらいだ。今すぐそれぞれの隊を連れて桝屋へ行け!」

「承知!」

 土方の、怒声混じりの命令に対し、語弊があるかも知れないが二人の対応はまさに『喜び勇んで』という表現がまさにぴったりだった。二人はすぐさま局長室を飛び出すと、部下をたたき起こし、争うように桝屋へ向かって出動していった。

「他の奴等は責め問いの準備だ。下手をすると、この前の二人みたいに二日、三日かかる可能性が・・・・・。」

 その時である。近藤が古川の尋問に立ち会うと言い出したのである。

「今回は不逞浪士側の重要人物と直接関係を持つ者が相手だ。かなり重要証言が出てくるだろうし、私も立ち会うべきだろう。」

「おい、近藤さん。何も局長自ら出張らなくても・・・・。」

 何も尋問如きに局長自ら、と土方は渋ったが、こういう時の近藤は極めて頑固である。

「いや、これこそ局長としての務めだろう。私も立ち会うし、いざとなれば責め問いを行うことだってやぶさかではない。」

 土方を説得するその目は真剣そのものだった。

「・・・・・判った。」

 普段は部下のやることに口出ししない近藤が、一度口に出したことに対しては頑な事を土方は嫌と言うほど知っている。できる限り自分の手で自白を引き出せば問題無いだろうと、土方は近藤の申し出を受けることにした。



 一方、桝屋に到着した武田・原田隊は店表から勝手口まで逃げ道を塞ぎ、今まさに突入しようとしていた。

「御用だ!大人しくお縄につけ!」

 武田のやけに通る声が、暁七つの京の闇に響き渡る。そして武田のその声と同時に一気に隊士達が桝屋店内になだれ込んだ。

「桝屋喜右衛門!神妙にお縄につけ!」

 寝込みのところを襲われた為か、桝屋喜右衛門は大した抵抗もできないうちに隊士達によって縄を掛けられてしまう。一体全体何が起こったのか、それさえも理解出来ていないらしい。桝屋喜右衛門は隊士達のなすがままに引き立てられていく。

「武田さん、あんたはあいつを連れてすぐに屯所へ戻ってくれ。俺は他に何か無いか調べて見る。」

「おう。では後は頼んだぞ。」

 武田としては『桝屋喜右衛門を屯所に連行する』という手柄を譲って貰ったようなものなので何も文句はない。桝屋を連行している隊士二名と共に、武田は桝屋を後にした。

「さぁて、『逃げ出せない事情』とやらを探すとすっか!おめぇたち、虱潰しにこの店を調べ上げろ!」

 実は原田は深く寝入っていた訳ではなかった。目こそ開けていなかったが、ぼんやりと沖田と土方の会話は聞こえていたのだ。捕まる危険を冒してまで、桝屋が自宅に残った理由を探し出すまでここを空にするのは極めて危うい。もしかしたら桝屋が自白をしなくても決定的な証拠になるような物品が残っているかも知れないのである。原田は隊士達に命令すると自分も家捜しを開始した。
 
「は・・・・・原田先生!大変です、すぐに土蔵に来て下さい!」

 家捜しを開始して間もなく、原田は隊士の一人に土蔵に呼び出される。

「な・・・・・何でこんな物が!」

 何と土蔵には菰に包まれた木砲五挺が隠されていたのである。そして樽からこぼれ落ちたと思われる鉛玉も床に転がっていた。そして奥の方にも何かが積み上げられている。

「まだ他に武器が隠されている筈だ・・・・徹底的に探し出せ!」

 原田の言葉に、隊士達はさらに真剣に桝屋を調べ始めた。



 桝屋が屯所に連行された頃には東の空が白み始めていた。すぐさま桝屋喜右衛門を土蔵に押し込むと、土方自らが責め問いを始める。

「桝屋喜右衛門!これは偽名だろ!本名を吐きやがれ!!」

 容赦のない激しい鞭の音と共に桝屋喜右衛門の絶叫が土蔵に響き渡る。

「ふ・・・・古高・・・・・俊太郎・・・・・。」

 数回の鞭打ちだけで名前はすぐに白状した。が、しかし、それ以外はなかなか白状をしようとしない。奉行所と違い、屯所には石抱の道具がない為、すぐさま海老責へと移行したが、それでも桝屋喜右衛門こと古高俊太郎は苦悶に表情を歪めるものの、一向に白状しようとはしなかった。

「仕方がねぇ・・・・・釣責だ!総司!二階から縄を下ろせ!」

 鞭打ちから海老責までは牢問と呼ばれ、必要に応じて勝手に行って良い『尋問』だが、釣責めになると話は違う。奉行所では評定所一座で執行の評議が決定しなければ行ってはいけない『拷問』なのである。
 勿論、忠蔵らを捕縛した際、その口から出た者もあわせて釣責にしても良いという許可は会津藩から貰ってある。

「永倉さん!今から縄を下ろしますんでよろしくお願いします!」

 身軽な沖田がいつの間にか土蔵の二階に昇り、梁から縄を下ろす。そして永倉が一方に古高を結わえ付け、もう一方の縄を島田と共に引いて古高を都留市上げた。古高は逆さ吊りの状態で土蔵にぶら下げられる格好になる。

「さっさと吐いちまった方が身の為だぞ!京都に火を放つたぁ、何を企んでいやがる!」

 ばちん!と激しい鞭の音と共に古高の皮膚が裂け、周囲の血の臭いが濃くなった。自らの体重で肉が縄に食い込み、すでに紫色に顔が鬱血している。そのうち身体に食い込んだ縄や鞭打ちの跡から血が噴き出し、顔へしたたり落ちてくるだろう。だが、何度土方の強烈な鞭打ちを喰らっても古高は口を引き結んだきり黙りこくっている。注意深く様子を監察しながら拷問を続けないと下手をすると舌をかみ切って自殺しかねない。

「副長、釣責を一旦諦め、足の甲から五寸釘を打ち、百目蝋燭をさすという手はどうですか?松山にいた時行っていた責め問いの方法なのですが。」

 業を煮やした谷三十郎が土方に提案する。だが、土方は谷に一瞥をくれただけでその意見を却下した。

「あんた、弟が近藤さんの養子になったからって口を出しすぎじゃねぇのか?田舎じゃ知らねぇが俺達は会津藩預かり----------幕府の配下だ。そんなろくでもねぇ責め問いが許される訳もねぇし、それ位じゃこいつは吐かねぇよ。」

 土方はちらりと外を見やる。日はだいぶ高くなってきて、じきに朝七つ半の鐘も鳴る頃だろう。そろそろ山崎が仕入れてきた『情報(ネタ)』の使い時か・・・・・土方は唇に酷薄な笑みを浮かべる。

「だいぶ日も高くなってきたな・・・・・いくら囲われている孕み女でもそろそろ起こしても問題無い頃合いだよな、古高。」

 孕み女、という土方の言葉に今まで頑なだった古高がぴくり、と反応する。その反応に古高の隙を見いだした土方は古高に近寄り、目を逸らすことが出来ないよう頭を押さえつける。

「祇園の裏に済んでいる・・・・・およし、って女、知っているだろう?二十歳を少し出たくらいの、ちょいと派手目の女だ。」

 土方の言葉に古高は明らかに動揺を見せる。

「し・・・・・知りまへん!そんな女・・・・・うちは・・・・・知りません!」

 吊られたままの状態で身体を揺すり、土方から逃れようとするが、逃げることは叶わない。とうとう疲れ果てて古高の動きが弱くなり、やがて止まった。

「だったらここに連れてこようか?なぁに、半刻もあれば充分だろう。おい、永倉。祇園にひとっ走り行ってきてくれ。勿論馬を使って構わねぇから。」

「待って下さい!ゆ・・・・・許してください!お・・・・・およしにだけは手ぇださんといてください・・・・・・。」

 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、古高は土方に懇願する。

「じゃあ何を企んでいるか、洗いざらい吐きやがれ!白状したら女をここに連れてくることは勘弁してやるし、ここから下ろしてもやる。ほら、さっさと吐かねぇか!」

 土方のとどめの一言に古高は観念し、ようやく重たい口を開いた。

「祇園祭の日・・・・・あの日は大抵風が強いから・・・・・・街火を付けて、玉を・・・・・天皇を奪還し・・・・・長州へ連れて行くと・・・・・。」

 息も絶え絶えの古高の自白に、全員が息を呑んだ。



UP DATE 2011.06.10


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ようやく古高俊太郎の拷問、そして自白の取っかかりまで辿り着きました。ぜぇぜぇ・・・・・本当に私にとってもこの場面は『正念場』です。

古高の拷問場面ですが、一応(?)幕府公認の『鞭打ち、(石抱は省略)、海老責、釣責』のみとさせて戴きました。『五寸釘+百目蝋燭』も有名ではありますが、拷問に掛った時間を考えるとちょっとこれは時間が掛りすぎるかな・・・・・と思いまして(^^;)。中間二人は二、三日くらい耐えたみたいなんですが、古高は早朝に捕まって午前中に自白しちゃっているんですよねぇ。意外と根性無しだったんだ・・・・・と思っちゃいけないんでしょうけど(爆)。もしかしたら中間二人の話と古高の話はごっちゃになっているのかも知れません。(むしろ二、三日自白にかかった二人に対して行ったと思った方が自然かも・・・・。)


次回更新は6/17、古高自白の続きと会津藩への報告、さらに新選組によって封印された桝屋土蔵を襲撃し、武器を奪い去る長州浪士など、池田屋に向かって話は一気に突き進みます。
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