FC2ブログ

「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第三章

夏虫~新選組異聞~ 第三章 第八話 正念場・其の肆

 ←葵と杏葉開国編 第六話 理由ありの姫達・其の参 →運び屋アレク 脱走成功、そして新たな貨物船・3
壬生屯所の土蔵で古高の拷問が行われている最中、桝屋では原田隊の探索が続いていた。

「この竹筒!火薬が詰まっていやがる!」

「こっちには刀と槍が!具足も十領ほどあります!」

「何だこれは!会津の印の提灯が何故こんな処にあるなんて!奴等、会津藩の藩士に化けるつもりだったのか?」

 隊士達が次々と見つける武器に原田の表情は緊張する。そして原田自身もある物を見つけ出した。

「やっぱりな・・・・あると思ったんだ。」

 箪笥の一番下の引き出しから原田は紙の束を取り出す。それは桝屋喜右衛門こと古高と長州側のやりとりの証拠となる密書であった。そしてぱらぱらと確かめたその密書の一つに、原田も驚愕するとんでもない事が書かれていたのである。

(七日、祇園会の賑わいに乗じ、御所に火を・・・・・・・その混乱に乗じて中川宮を幽閉・・・・・・一橋慶喜、松平容保らを暗殺・・・・・!)

 あまりにも大それたその計画に原田は愕然とした。自分一人ではこの内容は抱えきれないし、判断も不可能だ。いち早く屯所に帰って近藤や土方にこの事を伝えなければと原田は表情を強張らせる。

「よし!一旦引き上げるぞ!馬詰親子!お前ら二人はここを見張って、土蔵の封印を!他の奴等はここにある武器を一旦祇園の会所へ運び出せ。確かあそこに大八車があっただろう。それに積み込んで屯所へ持って来い。俺は先にこいつを屯所に届けてくる。」

 部下達に次々と指示を出した後、原田は書状を懐に押し込んで屯所へ走り出した。



「祇園祭の日・・・・・あの日は大抵風が強いから・・・・・・街火を付けて、玉を・・・・・天皇を奪還し・・・・・長州へ連れて行くと・・・・・。」

 息も絶え絶えの古高の自白に、全員が息を呑んだ。

「京都御所を中心に・・・・・・火を放つことにしている。その混乱に乗じて中川宮朝彦親王を幽閉し、一橋慶喜、松平容保らを討ち・・・・・・お上を・・・・長州へ連れ去ろうと・・・・・。」

 古高の口から漏れるとんでもない計画に、近藤や土方を始め立ち会っていた者達は愕然とし、ざわめき出す。その時である、土蔵の戸が勢いよく開けられ、原田が土蔵に飛び込んできたのである。

「ああ、近藤さんもここだったのか。見てくれよ!桝屋と長州の繋がりを照明する証拠が見つかったぜ!ほら!!」

 土蔵に飛び込んで来るなり、原田は懐から書状の束を掴みだし、近藤に手渡した。そこには今しがた古高が自白したことが克明に記載されていた。

「・・・・・もう少し早くそいつを持ってきてくれれば拷問の手間が省けたのに。」

 近藤の手にある書状の束を覗き込みながら土方は毒づくが、その顔には笑顔が広がっている。自白だけでなく、文章での証拠があれば信用性は極めて大きくなるからだ。

「あと、隠してあった武器も、一旦祇園の会所で大八車に積み込んでからこっちに運び込む。」

 原田の珍しい気働きに近藤や土方も満足げな笑みを浮かべる。

「でかした、左之。武田を先にこっちに帰しながら、いつまで油売っているんだと思っていたら・・・・・おめぇにしちゃ珍しく気が利くじゃねぇか。」

 土方の原田を褒める言葉に、手柄を取られてしまった形の武田は少し不満そうな顔をした。しかし、土方の鋭い視線に気が付き、すぐにそれを引っ込める。
 自白、そして密書と証拠は揃った----------だが、だからといってすぐ出動できない訳が新選組にはあった。

「歳、これは俺達だけじゃ人手が足りない。どう少なく見積もっても三百人・・・・・今、出動できる人数の十倍だ。」

 ここ最近の脱走者、そして病人などを考慮すると、即座に動ける隊士は三十人だけである。不意打ちを仕掛けたとしても、これでは圧倒的に不利である。

「そうだな。近藤さん、会津に援軍を頼・・・・・。」

 土方がそう言いかけた時である。原田の部下が息を切らせて土蔵に飛び込んできた。

「は・・・・原田先生、申し訳ありません!桝屋の封印が・・・・・破られました!」

 部下の報告に原田は愕然とし、飛び込んできた部下の胸座を掴む。

「何だって!馬詰は何をしていた!やつら親子に見張らせていたはずだろうが!」

「い・・・・居ないんです!どうやら逃げたみたいで・・・・・どこを探しても、死体さえ転がっていなくて・・・・・。」

 隊士の報告に、その場にいた者達は渋い表情を浮かべた。

「奴等、裏切ったか・・・・・いや、もしかしたら始めから間者だったのかもしれんな。去年の九月に全て粛正したと思っていたが、甘かったか。」

 それもよりによって土蔵の見張りを任せてしまったとは----------思わぬ失態に土方は唇を噛みしめた。



 その頃、長州藩邸には馬詰親子と武器を奪い返した長州浪士達が荷下ろしをしていた。

「これでようやく壬生狼の群れから解放される!本当に辛い仕事だったんですからね。」

 馬詰親子の息子・柳太郎は間者の任務を終えた開放感からか、嬉しげな表情を浮かべ、深く深呼吸をした。

「弱腰野郎の振りをするのも骨が折れましたからね。いつばれるんじゃないかと冷や冷やしましたよ。」

 新選組美男五人衆と謳われた秀麗な顔に酷薄な笑みを浮かべ、馬詰は隣にいた浪士に語りかけた。
 九月に他の間者達が粛正された中、馬詰親子だけは任務を遂行しようと逃げ出したいのを堪えて新選組にとどまった。さらに疑われては元も子もないといわゆる『へげたれ』の振りを親子二人して貫き通したのである。おかげで古高捕縛をいち早く仲間に知らせ、さらに一旦奪われた武器を奪還することが出来た。そういった点では新選組より一枚も二枚も上手だったと言えるだろう。

「それよりも古高さんを助け出さないと・・・・・奴等、殺すより残酷な事をしかねませんよ。」

 馬詰柳太郎の言葉に他の浪士達は深く頷く。

「そうだな。早速桂さんに報告しないと。俺達の計画も早くなるかも知れないな。」

 荷下ろしを終えた浪士達は、幹部への報告の為に藩邸の中へ入っていった。



 馬詰達が長州藩邸で奪還した武器の荷下ろしを終えた頃、近藤と土方はすぐさま黒谷へ出向き、広沢への謁見を求めた。原田が探し出した密書を読み、古高の自白報告を土方から聞いた広沢は表情を強張らせる。

「近藤、土方・・・・・しばし待て。これは私だけで判断は出来ぬ。」

 いつもなら即決しすぐに指示を出す広沢らしくなく、二人にしばしの待機を命じた。その指示に対し、近藤は激高する。

「何故!土蔵の武器も奪い返され、一刻の猶予もないんですよ!」

 だが、広沢は首を横に振り近藤を諫めた。

「この人数を相手ぬするとなると会津だけでなく、他所にも援軍を求めなければならない。私の一存で決定するには、事が大きすぎる。今すぐに評議を行い、京都所司代、奉行所、一橋にも打診する。今日中には話をまとめるからお前達はここで待っておれ。」

 そう早口で言い放つと広沢は立ち上がり、近藤や土方が引き留める間もなく部屋を退出してしまった。

「・・・・・これでは明後日の祇園会には間に合わないかも知れないな。」

 広沢が出て行った襖を見つめながら近藤が大きく溜息を吐く。

「そうしたら俺達だけでやるしかねぇな・・・・・どうせ待たされるなら句のひとつでもひねっておくさ。」

 こんなことなら『夕方までに帰ってこなければ捜索を開始しておけ』と言い残しておくんだったと土方はぼやきながら、懐から矢立と懐紙を取り出し、句作を始めた。



 だが、二人はそれほど待たされなかった。一刻ほど待たされた後、『殿のお下がりものですが』と出された昼餉を食べていた途中、何と広沢ではなく会津藩家老・横山主税が二人の前に出てきたのである。

「近藤、土方。殿がそなたらとの謁見を望んでおる。いますぐ参るように。」

 その言葉に二人は思わず顔を見合わせる。確かに援軍を頼んだが、まさか会津公自ら声を掛けてくれるとは思わなかったのだ。そして横山に付き従い松平容保の前に出ると、容保自ら病床から二人に声を掛けてきたのである。

「そなた達が調べ上げた情報、まことに貴重なものである。京都所司代と町奉行に打診したところ協力を得ることが出来たので、今夜捕縛に向かうように。」

 容保直々の言葉に近藤は涙を流し、深々と頭を下げたのは言うまでもない。そして二人は会津藩との細かな打ち合わせの後、壬生の屯所へと帰っていった。



 近藤と土方が屯所に帰ってきたのは昼八つ少し前だった。近藤や土方の指示こそ無かったが、皆、それぞれ捕物の準備をしていた。そして、その中心で指揮を執っていたのは何と山南であったのである。

「山南さん!あんた、起きていて大丈夫なのか?」

 傷の治りが思わしくないのに加え、体調も崩しがちで寝込んでいることが多かった山南が指揮を執っていることに驚き、土方は思わず山南に駆け寄る。

「ああ、土方君。思ったより早かったね。万が一、会津の意思が固まらない場合を考えて隊士達に準備をさせておいたんだが。」

 驚きの表情を浮かべたままの土方に対し、山南はにっこり笑った。

「そして私もね・・・・・この腕じゃ今度の大捕物には出ることはできないから、せめて屯所の守りだけでもと思って。」

 山南の腰には二本の長脇差が差してあった。大刀だと片手で振り回すのに難があるが、これならばどちらでも片腕だけでも扱える。

「・・・・・山南君。屯所に残るのなら頼みたいことがあるのだが。」

 近藤は何か思い当たる節があったのか山南に語りかけた。

「もし、私や歳が命を落としたら・・・・・新選組を頼む。」

 近藤の思わぬ頼みに驚いたのは山南の方であった。

「近藤さん、縁起でもない。会津や他からも援軍が来るんでしょう?」

「だが、戦いになったら何が起きるか判らない。私や歳が今回の捕物で命を落とすようなことがあったら・・・・・新選組を頼めるのは山南君、君しか居ないんだ。頼む!」

 近藤の真剣なまなざしに、山南は頷く事しか出来なかった。



 会津藩との約束の時間は夜五つ、祇園会所で落ち合うことになっていた。それまでまだ間があった為、隊士達は念入りに武器の準備をしたり、腹ごしらえをしたりしている。

「沖田さん、湯冷ましはいるか?」

 そんな中、無骨な湯飲みを二つ手にした斉藤が、沖田に声を掛けてきた。先程から何度も厠に行ったり来たりしているのに、茶の一杯も飲んでいない沖田に緊張でもしているのかと冗談半分に訊ねるが、沖田の返事は斉藤の気遣いを粉々に打ち壊すものであった。

「う~ん・・・・・お気持ちはありがたいんですけど、今はいいです。敵と対峙中に厠に行きたくなったらしまらないじゃないですか。それでなくてもちょっと腹を下し気味なので水分はちょっと・・・・・。」

 沖田の、緊張感の欠片もない一言に斉藤はぴくり、と眉を跳ね上げる。

「・・・・・まくわうりを一人で五個も食べれば誰だって腹を壊す!まったく緊張感の欠片もない。」

 そう言いながら斉藤は手にしていた茶碗二杯分の湯冷ましをごくごくと飲み干した。

「いいんですか、斉藤さん?そんなに湯冷ましをがぶ飲みしちゃって。お腹壊して二人して厠に駆け込むことになっても知りませんよ。」

「こんなもの、あっという間に汗になる。」

 斉藤は強く照りつける西日を掌越しに見つめながら呟く。

「まったく・・・・・去年も経験しているのに慣れないもんだな、京都の夏は。」

「ええ。風が吹き抜ける江戸の夏が懐かしいものです。」

 油蝉の鳴声を耳にしながら、沖田は手入れを終えた刀を鞘に収め、斉藤に笑顔を見せた。

「そろそろ準備はいいか!祇園会所に向かうぞ!」

 沖田が刀を鞘に入れたと同時に近藤の声が壬生の屯所に響き渡る。世に言う池田屋事変直前の光景は、若い隊士達の熱気と緊張感に満ちあふれたものであった。



UP DATE 2011.06.17


Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
ランキング参加中。お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv

  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)






ようやく『池田屋』直前までやってきましたvけっこうはしょって書いているつもりなんですけど、史実の時間の流れとほぼ同じだけの時間がかかっているのは何故なんでしょう(^^;)。なかなか早く進んでくれないものです。

今回突如出してしまった馬詰親子、ヘタレキャラで有名なんですが、今回ちょっとした矛盾解消の為に彼らを『間者』に仕立ててしまいました。
それは桝屋の土蔵の封印----------新選組によって守られていながら長州浪士に破られたという土蔵なのですが、その際の新選組側の被害者って調べても判らないんですよねぇ。さらに『御所に火を放ち・・・・』云々の記録は幕府や会津側ににしかなく、池田屋そのものが新選組のでっち上げだ説なんかもあるそうで・・・・・そうなると土蔵破りは『元々無かったものを、まるであったかの如くする為の工作』となってしまう訳でして(^^;)

なのでそこいら辺の矛盾を解消する為に、土蔵の護衛をしていた馬詰親子は長州側の間者で、ヘタレキャラを演じていた事にしてしまいました。彼ら親子、池田屋の時に脱走したって言う説もありますし、矛盾を解消するのには都合が良いかなっと・・・・・ただ、もう少し前に彼らの間者としての動きを挟んでおくべきだったとちょっと反省しております(^^;)


次回更新は6/24、お待たせいたしました、とうとう『池田屋事変』に突入です。(ただ、次回は池田屋に辿り着くかつかないか、ってところまでだと・・・・・きっと池田屋の玄関で『御用改めだ!』と近藤さんが叫ぶところで終わりそうな気がします。できればもう少し行きたいんですけどねぇ。)
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【葵と杏葉開国編 第六話 理由ありの姫達・其の参】へ  【運び屋アレク 脱走成功、そして新たな貨物船・3】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【葵と杏葉開国編 第六話 理由ありの姫達・其の参】へ
  • 【運び屋アレク 脱走成功、そして新たな貨物船・3】へ