FC2ブログ

「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第三章

夏虫~新選組異聞~ 第三章 第九話 池田屋事変・其の壹

 ←葵と杏葉開国編 第七話 義祭同盟と鉄の大砲・其の壹 →拍手お返事&お掃除イベント
夕暮れにも拘わらず、じりじりと照りつける日差しの中、総勢三十四名の新選組隊士は祇園会所に向かって壬生屯所を出立した。その後ろ姿を屯所守備に甘んじることになった腕の利かない山南敬助、数日前から夏風邪を引いている尾関雅次郎、そして最高齢の柳田三二郎の三名が見送る。

「誰一人欠けることなく、無事に戻ってきてくれることを願いたいものだ。」

 山南がぽつり、と呟いたその時、出動した隊士と入れ違いに山崎烝、尾形俊太郎、山野八十八の三人が屯所に戻ってきた。監察部隊の中心である立場上、この三人だけは今後を鑑み、敵に顔を知られない方が良いだろうと今回の捕物から外されたのである。

「山崎君、君にとって不本意ではあるだろうが・・・・・辛抱してくれよ。」

 少しばかり沈んでいる山崎を憂い、山南が心配そうに山崎に声を掛けた。その心遣いに山崎は笑顔を見せるが、それは明らかに作ったものであった。

「お気遣い、ありがとうございます。自分の技量は自分が一番ようわかってるつもりです。監察やのうても、今のわての腕じゃ皆の足手まといになってしまいますから・・・・。」

 山南の気遣いに応えながらも、その表情に再び影が差し、無念さを滲ませる。出来ることならこの捕物に参加し、可愛がっていた佐々木愛次郎の仇を討ちたい。だが、これから先の事を考えた時、特に山崎、尾形、山野の三人は敵に顔を知られる訳にはいかないのだ。壬生村が茜色に染まる中、山崎は悔しさを押し殺すかのようにぐっ、と拳を握りしめた。



 暮れ六つ半、新選組総勢三十四人は祇園会所に到着した。目の前にある八坂神社から漂う草いきれが当りに漂う中、近藤は会所の中に入ってゆく。

「会津の関係者はまだ来ていないんだな。」

 がらん、とした祇園会所の中を見回しながら近藤が呟いた。会所の中に居たのは会所を管理している下男だけで、あとは猫の子一匹いない。それを確認した土方は、一旦羽織を脱ぎながら近藤に語りかける。

「ああ、だがじきに来るんじゃないか?そもそも会津本隊は二条方面から捜索をすることになっているし、準備にまごつけば遅くなるだろうと広沢さんも言っていた俺達はすぐにでも行動に移せるようにしておくだけさ。」

 会津の本体は準備ができ次第、黒谷から二条大橋へ向かい、そこから南下することになっていた。そして人数が少なくなっている新選組への援軍として支援部隊を祇園会所に寄越してくれるはずになっているのである。でなければ、たった三十四人で祇園から木屋町までの広い範囲を短時間に探索することは不可能である。
 だが、暮れ五つを過ぎ、五つ半の鐘が鳴る頃になっても、会津藩の支援部隊はおろか、遅れを知らせる使いの者さえ祇園会所にやってこなかった。普段、どちらかといえば穏やかな近藤でさえもだんだん苛立ちを露わにし始める。

「あれほど詳細な打ち合わせをしたというのに・・・・何故来ないんだ!」

 苛立ちを露わにする近藤に同調するように隊士達も今すぐ出動をしたいとばかりにそわそわし始めた。どちらにしろあまり夜遅くなりすぎては取り逃がす可能性が出てくる。古高捕縛の情報は、馬詰ら新選組内部からの裏切りによってすでに長州側に行ってしまっている可能性が高いのだ。

「仕方がねぇ・・・・・二条方面に逃げられる可能性は出てくるが、俺達だけで探索を始めちまおう。」

 土方は苦渋の決断を下すと、早速隊を分け始めた。

「まずは沖田総司、永倉新八、藤堂平助、武田観柳斎、谷万太郎、浅野藤太郎、安藤早太郎、奥沢栄助、新田革左衛門。以上九名、お前達は局長に付き従い、木屋町通を四条から三条へ北上しろ。」

 名前を呼ばれた九人は黙ったまま頷く。

「次!松原忠司、宿院良蔵、伊木八郎、中村金吾、尾関弥四郎、佐々木蔵之助、河合耆三郎、酒井兵庫、木内峰太、松本喜次郎、竹内元太郎、近藤周平、お前達は八坂神社から祇園をずっと西へ。この隊は松原、お前に任せる。」

「承知!」

 返事をしたのは松原ではなく、つい最近、近藤の養子になったばかりの近藤周平であった。若さと言うよりはむしろ幼さ故の無駄な元気に、土方は苦笑を浮かべながら残りの隊士の名前を挙げてゆく。

「残り!井上源三郎、原田左之助、斎藤一、島田魁、谷三十郎、川島勝司、葛山武八郎、蟻通勘吾、篠塚峰三、林信太郎、三品仲治は俺について縄手通りを北上、三条大橋を渡って近藤隊と合流する。いいな?」

 人数に限りがある中、怪しい旅籠を調べるには三隊の分離が限度である。それでさえ各分隊約十名ずつという人数は極めて心許ない。万が一、どこかの隊が運悪く不逞浪士の集団に出くわしたら、その部隊は援軍の助けが来る前に全員死亡という事だってありうるのだ。

「一部隊十人前後か・・・・・確かにこれがぎりぎりのところだな。よし、捜索開始だ!」

 よく通る近藤の声を皮切りに、三つに分れた新選組は夜の街の捜索に繰り出した。



 新選組が探索の為、部隊を三つに分けていた丁度そのころ、池田屋では長州側の大物が二階奥の広間に佇んでいた。

「・・・・・会合の時間の筈なのに、皆遅いね。というか僕の来るのが早すぎたのか。」

 桂小五郎はがらんとした座敷を見て溜息を吐いた。そこにいたのは部下と自分を世話してくれた古高が捕縛された宮部鼎蔵と、同藩の松田重助だけである。特に宮部は自分の子飼の者が捕まった所為で古高が捕縛されたことを気に病み、意気消沈していた。

「同志が新選組に捕縛されたというのに、皆のんびりしているんだから。宮部くんの気持ちになってみれば自ずと判ると思うけどなぁ。」

 だが、桂もこの陰鬱な空気には耐えられそうもない。桂は二人に野暮用を済ませてくると踵を返すと、自分をここまで案内してくれた池田屋の主に声を掛けた。

「主人、僕はちょっと対馬藩邸に行って大島友之允君とちょっと話をしてくるよ。皆が集まった頃に誰かを呼びにやってくれないか?」

「へぇ、承知しました。」

 愛想の良い池田屋の主の笑顔に見送られ、桂は池田屋を後にした。そしてこの事が桂小五郎の運命を左右することになる。



 盆地独特の蒸し暑い闇の中、新選組の探索は開始された。五日月はすでに西の空に沈み、頼りになるのは手にした提灯と龕灯だけである。

「新選組だ!旅宿御改である!」

 闇を切り裂き、土方の声が茶屋・越房に響き渡る。そしてそれと同時に付き従う十一名が一斉に宿泊客を片っ端から調べ始めた。

「ら・・・・乱暴はやめておくれやす。うちに怪しい宿泊客なんおりまへん・・・・・。」

 おどおどとする主人を横目に新選組の探索は続く。主人の様子からすると、新選組に怯えてはいるが不逞浪士を匿っている様子は無さそうだ。そして案の定二階から斉藤一の少しがっかりした声が振ってきた。

「副長!全て部屋を調べましたが不審人物は居ません。」

「ここもか・・・・・。」

 なかなか浪士達に出くわさない。もしかしたらもっと長州藩邸に近いところで会合が開かれているのではないか----------土方は焦る。だが、この近辺を飛ばし、長州藩邸近くの茶屋の探索に変更したくとも、この人数ではそれができない。

「クソっ。会津が来てくれりゃあこんな心配せずに探索に集中できたのに!」

 本当ならこの時間、会津藩も二条から南下し、三条で新選組と落ち合う手筈になっていた。そして二条には長州藩邸もある。だが、ぼやいていても何も始まらない。

「よし次!行くぞ!」

 地道に不審な宿を潰してゆくしかない----------土方は部下に声を掛けると次の店へ動き始めた。



 成果が上がらないのは近藤隊も同様だった。木屋町通の店を虱潰しに探索していたが、不逞浪士の一人さえ見つからない。

「これだけ居ないっていうのも気味が悪いですね。」

 探索を終えた沖田が、汗を拭いながら呟く。喉は乾き、冷や水か柳陰の一杯も欲しいところだが、そんな余裕は今の近藤隊にはない。

「ああ、やっぱりどこかに集まっているんだろうな。でなけりゃ雑魚の一匹くらい網にかかるだろう。」

 永倉も額に汗を滲ませながら大きな溜息を吐いた。夜も更け、店じまいをし始める店もぽつぽつと出てきている。徐々に眠りに入ろうとする京の街の中、精力的に動いているのは自分達と龕灯に纏わり付く夏虫たち位だろう。

「仕方がない。ひとつひとつ調べていくしか方法はないんだ。行くぞ!」

 近藤の言葉に皆が納得する。そして息苦しい暑さの中、地道な探索は続いていった。だが、おおよそ一刻半をかけ木屋町通りの店を探索したが成果は出ず、近藤隊はとうとう三条通に出てしまった。三条小橋を渡る川風に身をゆだねながら、十人は思い思いに大きく伸びをしたり身体をほぐしたりする。

「冗談キツイよねぇ。まさかここまで、な~んの成果も無いなんて思わ・・・・・な・・・・・!」

 暑さにだれきった藤堂の言葉がその途中で凍り付く。

「どうしたんですか、藤堂さん?何か見つけたんですか?」

 不審に思った沖田が藤堂に語りかける。

「あれ!見てみろよ、池田屋の前!あいつ、こんな処にのこのこ出てきやがって!」

 藤堂が指さす先を見て沖田を始め、その場にいた隊士達が表情を強張らせた。池田屋に入っていく者、それは今日の昼、桝屋の土蔵警備を放棄して隊を脱走した馬詰柳太郎だったのである。まさかこんなところで裏切り者に出くわすとは----------十人の中に緊張が走る。

「・・・・・しかし、馬詰が入り込んだからと言って長州浪士が居るとは限らない。新八、平助。お前達二人は安藤、奥沢、新田の三人を連れて裏に回って様子を見てきてくれ。万が一敵の襲来があったら呼子を。」

「承知!」

 緊張で表情を強張らせながら永倉と藤堂は他三人を引き連れて池田屋の裏手に回った。

「やっぱりここが怪しいんですかね。長州藩邸からも近いですし・・・・・。」

「・・・・・だろうな。」

 沖田の言葉に、近藤が重々しく答える。そして暫くすると、先程よりさらに表情を強張らせた永倉と藤堂が二人だけで近藤等の許に戻ってきた。

「近藤さん、裏通りに面した座敷で会合が開かれていた。万が一を考えて三人を裏口に待機させている。」

 永倉の報告に、近藤が硬く口を引き結び、深く頷く。

「判った。武田、谷、浅野、お前達は表口で逃げ出してくる浪士を待ち伏せしてくれ。」

「承知。」

 それぞれの得物を手に、三人は不敵な笑みを近藤に見せる。

「総司、新八、平助----------私に命を預けてくれ。中に踏み込むぞ!」

「承知!」

 この捕物が彼らにとって大きな意味を持つことになろうとは思いもせず、三人は近藤に呼応する。そして近藤は試衛館の三人を引き連れ、池田屋の表戸の前に立ちはだかった。



どん、どん、どん!



 表戸を叩く、激しい音に池田屋の主人は不機嫌そうに戸を開いた。

「すんまへん、もう今日は店じまいなんどす・・・・・!」

 煩わしげに表戸を開けた瞬間、池田屋の主がごくり、と息を呑む。

「新選組だ!今宵、旅宿御改をいたす!神妙にしろ!」

 池田屋の主の目の前に立ちはだかっていた者----------それは背後に三人の猛者を引き連れた、鬼の形相の近藤であった。



UP DATE 2011.06.24


Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)






新選組にとって最大の事件、『池田屋事変』に突入ですvここまで来るのに70話もかかっているって・・・・我ながら長い(爆)。それ以上に読んでくださっている方の忍耐に拍手ものですよ。本当にお付き合い、ありがとうございますv

拙宅の話で新選組ファンなら『え、これって違うんじゃ?』という場面がいくつかあったと思われます。そのうちの一つが山崎さんの役割ですかね。有名な話だとあらかじめ池田屋に入り込んで敵から刀を奪っていた、っていうのがありますが、今回はその説は却下。もし山崎さんが池田屋にあらかじめ入っていたら何もあちらこちら御用改めする必要もありませんので、山崎さんには純粋な留守番役に徹して貰いました。

そしてもう一つは隊の組み分けですね。よく言われるのが近藤隊5名、土方隊24名って奴ですが、今回は報奨金を参考に近藤隊、土方隊、松原隊の三隊に分け、鴨川を挟んで近藤隊と土方隊が北上、松原隊が東から西へというルートで探索したという説を選択させて戴きました。これが一番合理的でしたしねぇ。

ま、いわゆる『普通』じゃないのはいつものことなので(^^;)・・・・勘弁してやってくださいませ。


次回更新は7/1、とうとう池田屋突入ですv

関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【葵と杏葉開国編 第七話 義祭同盟と鉄の大砲・其の壹】へ  【拍手お返事&お掃除イベント】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【葵と杏葉開国編 第七話 義祭同盟と鉄の大砲・其の壹】へ
  • 【拍手お返事&お掃除イベント】へ