FC2ブログ

「短編小説」
猫絵師・国芳

猫絵師・国芳 其の漆・井戸替えのブチ猫

 ←拍手お返事&お掃除イベント →運び屋アレク 脱走成功、そして新たな貨物船・4
七月七日、この日は七夕であると同時に、江戸八百八町の井戸替えの日でもある。井戸替えとはいわゆる井戸浚いの事で、一年の間に落ち込んだ落ち葉やごみを取り去る作業だ。水道で繋がっている江戸に於いて、一つの井戸だけで井戸替えを行うと隣の井戸に汚れが流れ込んで厄介事に発展してしまう為、江戸中が一斉にこの作業を行うことになっている。

井戸替えはまず井戸の化粧側を外し、滑車で大桶を下ろして井戸水を汲み出す。この桶は井戸を使用している者達が総出で曳くのだが、力仕事なのでその役割は自ずと男衆に割り振られることになる。
そして七分通り汲み出したところで井戸職人が水中に潜り、井戸の内側を洗って落下物を拾い出す。銀鍍金の簪やら子供の玩具、時には酔っぱらいが落とした財布などが出てくるのもご愛敬か。
この作業を終え、全部汲み干したら化粧側を元通りにかけ、板戸を蓋にしてその上に御酒、塩を供えてこの作業は終了する。
夏越しの祓同様、暑さが増し、人々の体調も崩れやすくなるこの時期、せめて水だけはきれいにという江戸の知恵がこの井戸替えなのである。



「ふう、ようやくきれいになったね。」

きれいに掃除された井戸を覗き込みながらお滝は嬉しそうに笑った。その隣では国芳も井戸を覗き込む。

「やっぱり替えたては良いもんだな。こら、ブチ太郎。そんなに覗き込むんじゃない!井戸に落っこちたらどうする!」

国芳は懐からこぼれ落ちそうになったブチ柄の仔猫を慌てて抱きかかえた。その仔猫を見てお滝はちょっと驚きの表情を浮かべる。

「おや、新入りかい?初めて見る子だねぇ。」

お滝は頭の上と左耳に黒いブチ模様がある、その仔猫の顔を覗き込んだ。

「おうよ。昨日お師匠さんの処に行く途中、こいつらが捨てられてたんだ。で、こいつがブチ次郎。ブチ太郎と違って引っ込み思案でよぉ。」

そう言うともう一匹、おどおどとした様子で右耳に少し灰色がかったブチ模様のあるブチ猫が顔を覗かせる。どうやらかなり臆病な性格らしい。

「腹すかせてみゃあみゃあ鳴いているのを放っておけるか?お滝。」

いつも猫達の餌を貰っているお滝に対してさすがに気が引けたのか、国芳はお滝の顔色を伺うように訴える。

「・・・・・わっちは無理だね。まぁ、賑やかになる事は良いことさ。」

国芳の、まるで子供のようなご機嫌伺いにお滝は苦笑いを浮かべると、ちび猫二匹の喉を撫でてやった。

「この時期の仔猫は本当にかわいいもんだねぇ。あのふてぶてしいトラにもこんな時期があったんだから・・・・・そうだ、今夜の七夕の時、この子等を貸しておくれでないかい?」

「別にかまわねぇが、何故だい?」

「わっちとおウメだけの七夕じゃ侘びしいだけじゃないか。こんなちびだってオスはオスさ。じゃあちょいと汗を流してから受け取りにくるから。」

お滝はそう宣言すると、早速替えたての井戸から水を汲み上げ、盥に移し始めた。どうやら行水を始めるらしい。

「行水かよ。だったら湯屋に行けばいいじゃねぇか。」

何故か顔を赤らめ、国芳はお滝に湯屋へ行くように進めるが、お滝は頑として聞く耳を持たなかった。

「何言ってるんだよ。替えたての井戸の水を使っての行水、年に一度の贅沢じゃないか。」

盥半分ほど汲み上げると、自らそれを運ぼうとする

「おいおい、三味線の師匠が腕を痛めたらどうするんだよ。俺が裏庭まで持って行ってやるからさ。」

国芳はひょい、っと盥を抱えるとお滝の長屋へ入り込んだ。

「ちょっと、あんただって同じだろう?絵描きが腕を痛めちまったら・・・・。」

「足の指で描くさ。」

ちび猫達を懐に入れ込んだまま国芳は盥を裏庭へと運び、ついでに塀に空いていた節穴に懐紙を丸めて詰め込む。

「これで覗きをしようなんてふてぇ奴はいねぇだろう。今度この節穴もちゃんと埋めてやるよ。」

やけに偉そうに胸を張る国芳に、お滝は笑顔を向けながら肩に手を乗せ、くるりと国芳の身体の向きを玄関側に変えた。

「やけに気が利くじゃないか。ありがとよ。でも、あんたも覗きはダメだからね!」

お滝はきっぱり言い放つと、国芳を背中を強く押し、自分の借家から外に追い出した。

「・・・・・なんでばれるかな。」

国芳はちっ、と舌打ちをしながら懐から首を出している二匹の仔猫たちの頭を撫でる。

「こんな事だったらお前達をあっちに忘れたことにして入り込めば良かったなぁ。失敗したぜ。」

ちゃぷちゃぷと聞こえたきた行水の音に耳を傾けながら、国芳は溜息を吐いた。だが、盥を運んだ『お手伝い』の効能は無駄働きではなかった。何とお滝から『仔猫たちの後見』として国芳も七夕の誘いを受けたのである。お滝の誘いを受け、国芳は貧乏徳利手にほいほいとお滝の借家に上がり込む。

「今年もいい星空だねぇ。ちょっと、孫三郎さん!あんたも枝豆ばかり頬張っていないでちったぁ星空を愛でたらどうだい!」

「痛っ!耳を引っ張るなって!見てるよ、見てるってば。だけどお前が茹でた枝豆の方がうめぇんだから仕方がねぇじゃねぇか!」

空には見事な天の川がかかっている。小さな笹飾りが風に揺れる音を聞きながら、国芳はお滝が茹でた枝豆をほおばった。



UP DATE 2011.06.25


Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)






今回、新キャラ(?)こと双子のブチ兄弟が国芳一家に仲間入りすることになりました。タマ、トラ、シロ、ミケ、に加えてこの二匹ブチ太郎とブチ次郎、これから成長していきますのでよろしくお願い致しますv

そして今回は井戸替え&行水の予定だったんですけど・・・・・お滝の行水シーンを書く予定だったのに行水が殆ど消えてしまいました。音だけって・・・(爆)。やっぱりこの二人で色っぽい進展は難しいんでしょうか(^^;)それでも七夕に誘われただけ少しだけ進展したのかも知れません。果たしてこの二人、どうなるんでしょうかねぇ・・・・・。

次回更新は7/25(月)、国芳の猫エピソードでも特に有名な『猫の過去帳』の話の予定です。
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【拍手お返事&お掃除イベント】へ  【運び屋アレク 脱走成功、そして新たな貨物船・4】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

S様、初めまして(^o^) 

こちらこそ初めまして、管理人の乾小路と申します。あの~S様、お名前から察しますところ、もしかしてあの人気サイト『春想亭』の管理人様でいらっしゃいますか(滝汗)まさかのビッグネームにドキドキしております。しかも拙宅の『猫絵師・国芳』と『明治美味草紙』までお読み戴けたとは・・・・お恥ずかしい限りです(^^;)
あ、S様も幕末ファンでいらっしゃいますか?『明治~』では本当に有名どころor『坂の上の雲』の登場人物をメインにした、かなり偏った人選だったのですがそう言って戴けると嬉しい限りです。別の作品は・・・・無駄に長いものが多いですので(^^;)もしお時間がございましたら、『明治~』同様幕末有名人の短編集『幕末歳時記』をオススメします。
時代背景に関してはこれだけしか取り柄がございませんので・・・・(苦笑)。他の作家様のような心理描写が苦手な分、そちらでカバーしている次第です。噂に因りますとS様の作品は非常に人物描写に定評があるそうでv近々勉強を兼ねて伺わせていただきますね(*^_^*)
こちらこそ素敵な出会いに感謝感謝ですvわざわざのご来訪、そしてお声がけ本当にありがとうございましたm(_ _)m

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

いえいえ、こちらこそv 

S様、再びのお言葉ありがとうございますm(_ _)mなんか却って気を遣わせてしまってみたいで・・・・(^^;)
『春想亭』様もR-18と表記されながらもエロよりむしろ叙情が印象に残り、(途中までしか拝読しておりませんが)美しい余韻にどっぷり浸らせていただきましたv
(時代考証は単に風光る&歴史オタクのなれの果て・・・あまり褒められたものではありません^^;)

あ、S様!『坂の上の雲』のファンなのですか!(がしっ!)オン、オフ含めて『坂の上~』のファンが周囲に非常に少ないので嬉しい限りです(^o^)好古さま、素敵ですよね~。お酒の種類は問わなかったようですが、やはりフランスに留学したイメージからブランデーとコラボさせて戴きました。そして藤田五郎さんのお墓の前のお話・・・・いやはや(^^;)雪に埋もれていたらそりゃ判りませんよね(笑)。それよりも新選組三番隊組長のお墓参りが非常にうらやましいですv

こちらもS様という素晴らしい作家様にお声がけして戴いた上に、お宝サイトまで知ることが出来て非常に嬉しく思います。まずは『日照雨』、そして『おぼろ月』やその他の素敵作品もこれからゆっくり堪能させて戴きますねvこちらこそ今後ともよろしくお願い致しますm(_ _)m
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【拍手お返事&お掃除イベント】へ
  • 【運び屋アレク 脱走成功、そして新たな貨物船・4】へ