FC2ブログ

「短編小説」
幕末歳時記

幕末歳時記 其の拾捌・大嘗祭(明治天皇&美子女御)

 ←葵と杏葉世嗣編 第二十二話 雪華の君・其の壹 →葵と杏葉世嗣編 第二十三話 雪華の君・其の貳
十一月の二の卯の日を前にして、今上帝・睦仁は女御である美子(はるこ)を前に苛立ちを隠そうとせずぶつぶつと文句を言っていた。

「大嘗祭自体は構わないけど、その後の宴のいくつかを西洋式でやるなんて。『外国人の賓客の為』といいながら伊藤の奴は・・・・。」

 大嘗祭後の宴に対して文句を言いながら実のところ一生に一度の大嘗祭そのものに不安と緊張を抱いているのは明白である。

「『天狗さん』は何でそう平然としていられるかな。」

 日本人にしては鼻筋が通って西洋風の顔立ちをしている美子を睦仁は親愛の情を込めてそう呼ぶ。結局の所睦仁は泰然自若とした年上の女御に甘えているだけなのだが、本人にその自覚はない。

「だって西洋式の宴で外国からの賓客を出迎えれば慣れない風習に戸惑うことなく、より陛下の素晴らしいところを皆に知っていただくことが出来るじゃないですか。」

 いつものことなのだろう、睦仁の小言に対し眉ひとつしかめることもせず美子は睦仁を宥めにかかる。

「私たちが西洋の風習に戸惑いを覚えるのと同じくらい外国からの賓客は我々の風習に戸惑いを覚えることでしょう。陛下だってもし外国での宴に呼ばれた際、少しでも日本を思い起こさせるものが出てくればほっと致しますでしょう?」

 きかん気の強い弟か子供をあやすように美子は辛抱強く睦仁を説得にかかる。睦仁もそれが解っているのだろう、徐々に表情をやわらげ結局この一言で結末を迎えることになる。

「『天狗さん』が言うならしょうがないか。」

 この一言が出ればもう大丈夫である。大きな目を細め、春子の顔にも安堵の笑顔が浮かんだ。



 急死した孝明天皇の後を受け急遽即位した睦仁に結婚話が持ち上がったのは慶応三年六月のことであった。

「東宮、もとい今上帝の女御にはぜひとも寿栄君を!」

 伏見宮家の縁故で、女流漢学者で勤王論者の若江薫子が新帝の女御選出の席において寿栄君こと後の美子を推薦したのだ。一条家から女御が選出されるのならば、徳川慶喜の元婚約者である姉の千代君が有力だろうと思っていた面々は予想もしていなかったその名前に驚愕する。

「確かに一条家の姫君の中では寿栄君が今上帝に年が一番近いですが・・・・・。」

「姉の千代君を差し置いて、というのは如何な物でしょうか?」

 重鎮達は『順番』を盾に薫子の提案に対し渋い顔をする。所詮お飾りの女御であり、家格だけ釣り合えばいいとその場にいた者達は口にするが、薫子は一切引かなかった。

「確かに今までであればそれで良かったでしょう。しかし、今は激動の時。今上帝に何かあった時皆を率いることができぬ女御では話になりませぬ!天璋院をご覧なさいませ!」

 確かに徳川家を頂点とする幕府は大奥の天璋院を頂点に忌々しいほど固い結束を誇っている。家茂が亡くなって人質同然の和宮も京都に帰ってくると思ったが天璋院に籠絡されたのか江戸から戻ってくる気配さえない。

「殿方にとってはご不満もおありでしょう。ですがこれからの時代今上帝にとって本当に力になる女御が必要だと私は思います。その点において寿栄君こそ最も今上帝の女御に相応しいかと存じます。」

 薫子の気迫に気圧され、結局美子が睦仁の女御になったのだがその判断は薫子が想像していた以上に睦仁にとって良い方向に働いた。



 若い割りには気むずかしく、保守的な睦仁に対し春子は明るく社交的で、新しい事にも積極的に取り組む女性であった。のちに良人・睦仁に先駆けお歯黒・眉剃りを止めてしまいそれに従う形で睦仁が渋々断髪をした逸話からもそれが伺えるだろう。だが、決して良人を立てずでしゃっばっていたわけではない。
 徳川時代の大奥の失敗を新時代に引き継がぬようにと彼女は自らを律して国政に直接関与する事を戒めていたのだ。良き側近にも恵まれ、美子自身は勿論その関係者の直接的な政治関与は一切無かったことも明治政府としてはありがたかった。
 彼女が関与したのはむしろ睦仁と臣下の人間関係であり気むずかしい良人を助けるように、臣下の者に気遣いを見せることもしばしばであった。

 そんな美子に対し、睦仁は絶大な信頼を寄せていた。外に対して『絶対君主』を演じ続けなければならない若き帝が心を許すことが出来た数少ない人物、それが美子だったのだ。



 今上帝・睦仁の大嘗祭 がようやく執り行われたのは年号が替わり、世情も落ち着いてきた明治四年のことである。ガス灯が街中を照らす時代にありながら古式ゆかしく松明で照らされた中、儀式は厳かに進んでゆく。斎服に身を包んだ睦仁の後方に付き従うのは華奢な影。だが、その影こそ睦仁が帝として最も必要とする支えであり最も愛おしい女性である女御の美子であった。



UP DATE 2009.11.16


Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
ランキング参加中。お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv

   
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)






今回はちょっとずるして明治時代に入ってからの話にしてしまいました(^^;実は私、明治天皇よりも昭憲皇太后こと美子女御(生前は皇后ではなかったそうです)のファンでしてv詳細はぜひ田辺聖子先生の『文車日記』、昭憲皇太后の項かWikipediaをお読み下さいませ。(私が説明すると、どんどんかけ離れていく気がする・笑)
先進的でありながら出しゃばらず、周囲に対して気配りが出来るこういう女性あこがれます。(明治時代の女性って才能があってなおかつ女性らしい方が多いですよね。これも教育のタマモノかしら。)

今回のお題『大嘗祭』なのですが、毎年行われる新嘗祭の中でも特に大きく天皇一代について一度だけの大きなイベントです。『平成の大嘗祭』もほんのちょっとだけTVで映像が流れましたが(神殿に入っていく時だけ。中の儀式は一切撮影NG)ものすごく幻想的でしよ~。あれからもう20年経つんですよね・・・・歳も取る訳だ(爆)

来週は煤払い辺りをテーマにしたいと思います。原田左之助&まさあたりですかね。確か十二月に第一子が生まれているはずですのでそこいら辺を。
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【葵と杏葉世嗣編 第二十二話 雪華の君・其の壹】へ  【葵と杏葉世嗣編 第二十三話 雪華の君・其の貳】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【葵と杏葉世嗣編 第二十二話 雪華の君・其の壹】へ
  • 【葵と杏葉世嗣編 第二十三話 雪華の君・其の貳】へ