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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第三章

夏虫~新選組異聞~ 第三章 第十三話 明保野亭事件・其の壹

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新選組が祇園会所から壬生屯所に戻ってきたのは、正午をほんの少し過ぎた頃であった。騒ぎを聞きつけて出迎えた山南や八木らは、返り血で汚れた隊士達を見て目を丸くする。

「近藤さん!これは一体・・・・・。」

「い・・・・一体何があらはったんですか?」

 さらに大八車に乗せられて帰ってきた安藤や新田、そして変わり果てた姿の奥沢に屯所待機組は愕然とした。山南や山崎は思わず大八車に縋り付き、重傷の二人に声を掛ける。

「山南さん、この二人をすぐに副長室の隣室へ運んでくれねぇか。祇園から大八車に乗せてきたから傷が悪化しているかもしれねぇ。一刻も早く畳の上に寝かせてやってくれねぇか。」

「確かにそうだな。山崎君、手伝ってくれ。」

「へぇ!」

 山南の一声に、山崎を始め屯所残留組がすぐさま大八車を前川邸へ引き込み、新田と安藤を運び込んだ。

「八木さん。帰還早々ご心配をおかけしてすみません。思った以上に大きな捕物になってしまいましてね。」

 運び込まれる重傷者をはらはらしながら見ていた八木に対して、近藤が朗らかな笑みを浮かべる。

「昨夜の捕物については後ほどゆっくりお話をさせて戴きます。さすがにこんな姿で話し込むのも何ですから。」

 返り血に汚れた袖を見せながら語る近藤のその姿に、八木は彼らが遭遇した過酷な戦いがどんなものだったか思い知らされた。

「八木さん、気をつけた方がいいぜ。捕物の自慢話で一晩中付き合わされかねねぇ。」

 表情を強張らせた八木を気遣った永倉の茶々に、皆がどっと笑う。そんな中、土方は沖田にそっと近づき耳打ちをした。

「総司、おめぇは暫く八木さんのところだ。」

 土方のその言葉に沖田は眉を顰める。その顔色は決して良くはなく、本調子にはまだまだであることを如実に物語っていた。特に祇園から壬生まで歩いて帰還したことが沖田の体力を奪ってしまったのだろう。

「ちょっと、土方さん!もう私は大丈夫ですから!」

 沖田は土方の指示に異を唱えるが、土方はそれを一蹴する。

「暑気あたりを舐めるんじゃねぇ。特におめぇは一度気を失っているんだ。数日は大人しくしていろ。」

 土方は沖田をひと睨みすると、八木に声を掛けた。

「八木さん、すまねぇがこいつを二、三日預かってくれねぇか。ひでぇ暑気あたりで倒れたんだ。前川さんの所じゃ隊士が多すぎて、またぶり返しちまう。」

「へぇ、承知しました。沖田はん、無理せんとたまにはゆっくり休んでおくんなはれ。」

 沖田をおいてけぼりにして土方と八木の話がどんどん進んでゆく。それが沖田には面白くない。

「・・・・・まだ不逞浪士達の捕縛が終わっていないんですよ?私だけのんびり休んでいる訳にはいかないじゃないですか。」

 不機嫌さを露わにし、沖田は憮然とする。逃げた浪士、さらに仇討ちを企てる浪士の追討はこれからが本番なのだ。それなのに何も出来ない悔しさが沖田の表情に滲み出る。そんな沖田を宥めたのは他でもない近藤であった。

「総司、巡察だけが仕事じゃない。それに屯所だって決して安全とは言えないんだぞ。特に今回は新選組単独で池田屋襲撃を行ったんだ。屯所に反撃に来る可能性だってあるんだぞ。」

 近藤の言分には一理あった。不本意ではあったがこればかりは仕方がない。近藤の言葉に沖田は黙って頷いた。



 一旦屯所でひと休みしたあと、動けるものは再び市中巡察へと出向いた。沖田はひとり中庭に面した奥の間に寝かされる。庭を通る風が心地良く、沖田の疲れ切った身体を癒してゆく。

「八木さん、本当に大丈夫ですから・・・・。」

 あれこれと世話をしてくれる八木に対し、沖田は困惑の表情を浮かべる。

「京の暑さを軽く見てはあきまへん。暑気あたりで無くなる人もおるんですから。」

 八木は完全に沖田を病人扱いして安静にさせようとする。これでは抵抗することもままならないと、沖田は諦めて夏掛けを被った。

(これは諦めて身体の回復に専念した方が良さそうですね。)

 誰も彼もが沖田を寝かしつけようとする状況に沖田もとうとう観念した。油蝉の声を遠くに聞きながら目を閉じると、瞼の裏には浅葱色の半襟に縁取られた細い首筋と、振り向きざまの細面の愛らしい顔が浮かんでくる。

(お小夜さん・・・・・可愛かったなぁ。どうせならお小夜さんに看病して貰いたかったけど、こればかりは贅沢は言えませんよね。)

 屯所の気安さも、八木の心のこもった看病もありがたいものだが、小夜の看病を一度受けてしまった今、それはあまりにも味気ないものに沖田には感じられた。額にあてられた小夜の手の感触、そして柔らかな小夜の声を思い出しながら、沖田はいつの間にか眠りに落ちていった。



 夕刻になり、会津藩から七名の援軍が遣わされた。ただでさえ人数不足の新選組である。池田屋の復讐を目論む浪士達の襲撃の可能性もあったし、未だ屯所に留置していた古高の奪還も防がなくてはならないため、新選組側から会津藩に依頼したものである。

「暫くの間、こちらに詰めるよう上司から申し渡されました。よろしくお願いします。」

 芝司、と名乗った若者が七名を代表して一礼する。

「また会津も若くて活きの良さそうな連中を寄越したな。会津本体は年寄りばかりで大丈夫なのか?」

 と土方が冗談半分の心配をするほどその七人は若く、腕の立ちそうな者ばかりであった。

「ところで我らの巡察はどのように?」

 常盤常治郎と名乗った若者が土方に訊ねる。

「だったら二手に分れてうちの隊士と組んでくれ。巡察は明日の午後から頼む。」

「明日の午後・・・・・?今からの巡察でも俺達は構いませんが。」

 お客様扱いをされたと思い、石塚雄吾がむっとした表情を露わにするが、土方は顔色一つ変えることなく言った。

「池田屋の昨日の今日だ。頭に血が昇った奴等が夜陰に紛れて屯所にやってくる可能性が高い。巡察よりもむしろ屯所の守りを今夜は固めたいからお前さん達には屯所で待機して貰う。」

 すでに入り口や裏口には木砲が並べられており、巡察に出ていない隊士達も臨戦態勢で臨んでいる。だが、さすがに徹夜状態で戦っている所為か、隊士達の顔には疲れが滲んでいた。その表情を見て、会津藩の若者達は納得する。

「・・・・・確かに俺達がこちらに残っていた方が良さそうですね。解りました、巡察は明日からという事で今夜はこちらを守らせて貰います。」

 昨日の捕物にこの七人は参加していなかったのか。やけに生き生きとやる気に満ちていた。

「お前さん達は昨日の捕物には?」

「出陣できなかったんです。藩校を出たばかりの若造の出る幕じゃないって。」

 ふくれっ面を見せながら土方にぼやいた芝の言葉に、残りの六人全員が頷く。

「新選組では俺達と同年代でも部下を率いて巡察に出ている方がいるじゃないですか。俺達にだって手柄を立てることが出来るんだということを見せてやりたいんです!」

 やる気満々、というよりやる気が空回りしそうな勢いの、会津藩の若者七名に土方は苦笑いを浮かべた。

「まぁ、へばらない程度に頼むわ。このヤマ、長丁場になる可能性が高いぞ。じゃあ、今夜は宜しく頼む。」

 空回り気味のやる気も、満身創痍の新選組の助けには充分すぎるほどである。土方は屯所周囲の警備を彼らに頼む為案内し始めた。



 幸いなことにその日は浪士達の襲撃はなかった。だが、暫くは安心できないだろう。屯所の寝ずの番を引き受けた会津藩の若手は午後からの巡察ということで今は隊士部屋で泥のように眠り込んでいる。それを横目で見ながら近藤と土方は池田屋の報償を受け取りに黒谷へ出かけていった。

「へぇ。確かに大捕物でしたけど、わざわざ二人が出向いて報償を受け取りに行くなんて。去年の政変以来じゃないですか?」

 横になる事に飽きて、山南の部屋に顔を出した沖田が感心したように言う。この部屋には山南と同門のよしみで藤堂が横になっていた。

「確かにそうだね。それだけ大物だったんだろう。」

「しかし・・・・・桂は取り逃がしましたけどね。山崎さん、まだまだ貴方の力が必要になりそうです。」

 隣にいた山崎に沖田はにっこりと微笑みかける。

「う~ん、何や、複雑な気分ですね。仇討ちの機会がまだあるのはありがたいんやけど、捕まってくれた方がお国の為やし・・・・・。」

「いいじゃないですか。山崎さんが捕まえれば。」

「沖田センセも冗談きついなぁ。」

 山崎のおどけた一言に山南と沖田、そして部屋で横になっていた藤堂が笑った。

「ところで報償の使い道は考えてはるんですか?」

 山崎の問いに沖田は困ったような表情を浮かべる。

「多分、新しい刀で消えてしまうんでしょうねぇ。一昨日の捕物で刃が欠けて使い物にならなくなってしまいましたし。」

「俺も多分そうだろうな。ま、給金から全部捻出しなくてもいいのはありがたいかも。普段使いの奴だから、十両くらいの刀でいいよね。」

 多分五両くらいは貰えるだろうと踏んだ藤堂の言葉に沖田は頷いた。



 五両も貰えれば御の字だ----------そう思っていた藤堂や沖田だったが、会津からの報償は想像を絶するものであった。全体で五百両、手傷を受けたもの五名に対しては薬種料として他に二十両の計六百両、酒ひと樽、近藤に刀一振りが拝領されたのである。その為近藤隊は二十両、土方隊には十七両、松原隊には十五両の報奨金が分配された。

「総司、平助。お前達の取り分は二十両だ。」

 近藤の言葉に二人は目を丸くする。

「刀を新調してもおつりが来るじゃないか。怪我が治ったら太夫でも奮発しようかな・・・・・あたた!」

 はしゃぎすぎた藤堂が傷口を押えた。

「藤堂さん、無茶しないでくださいよ。太夫どころか治療代に報償が消えてしまったら洒落になりませんよ。」

 沖田の一言に、その場にいた全員が大笑いをする。

「・・・・つぅ。そういう総司は何に遣うんだよ!」

 皆に笑われたのが面白く無かったのか、藤堂はぶっきらぼうに沖田に問い質す。

「そうですね。とりあえず刀を新調したら残りは姉夫婦の所にでも、今回の報告と共に送ろうかと。江戸で新徴組も頑張っているみたいですしね。こちらも負けていないぞと。」

 ありきたりな沖田の答えに藤堂は鼻白んだが、こればかりは個人の自由である。それ以上追求することもなくその話は終わった。



 報奨金も貰い、不逞浪士の捜索も少しずつ落ち着き始めた六月の十日、巡察から帰ってくるなり武田観柳斎が大声を張り上げた。

「手の空いている者!大至急集まれ!明保野亭にて不逞浪士共二十名がいるとの供述があった!逃げられる前に明保野亭に向かうぞ!」

 その声に、屯所に緊張が走る。世に言う『明保野亭事件』の、これが始まりであった。



UP DATE 2011.07.22


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池田屋事変と禁門の変の間に挟まれてとかく忘れ去られがちになる『明保野亭事件』です。実は私も友人の作品で読んだ以外ろくにこの事件のことを知らなくて(^^;)ただ、この事件によって会津と土佐の関係が微妙なものになってゆくみたいですので、取り上げない訳にはいかないな~と挑戦して見ました。

ただ、今回の話からも予想できますように沖田の恋心もちょこちょこと入って参ります。小夜との直接の出会いは無いのですが、次回かその次あたりに『小夜の居場所』のヒントが得られるかも・・・・・一度目の出会いはすんなりでも、二度目の出会いはそう簡単にいかないのが恋というものです。沖田にはいましばらく己の恋心に振り回されて貰いましょうv


次回更新は7/29、隊士&会津藩士が明保野亭に出動いたします。
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