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「短編小説」
猫絵師・国芳

猫絵師・国芳 其の玖・再会の月見猫

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すががきがかき鳴らされる吉原に中秋の名月が上がってゆく。
この日は吉原の紋日であり、花代が二倍となる為吉原の遊女達も客を取ろうと必死であった。特に十五夜は後の月見と対になり、どちらか片方だけだと『片見月』と忌み嫌われるだけに娼妓達も、そして見世の男衆も客寄せに必死だ。そんな中、吉原の見返り柳の下を珍しい客が通っていた

「ねぇ、孫三郎さん。よりによって十五夜の紋日に吉原くんだりに出向かなくたって良いじゃないか。それに吉原に女連れなんてあまりにも間抜けだし。」

国芳に手を引かれ困惑の表情を浮かべているのはお滝であった。遊女以外に出入りする女も居ない訳ではないが、夕方のこの時間、しかも男と共に大門をくぐる女はまず居ないだろう。周囲の奇異な者を見る目に耐えかねてお滝は赤面するが、国芳は我関せずといった感じにお滝の手をさらに強く握る。

「仕方ねぇだろう。目当ての相手がこの日しか身体が空いてねぇって言うんだからよ。」

意味深な笑みを浮かべながら国芳は吉原大門をくぐり、お滝用に女切手を受け取ると、ずんずんと混み合っている吉原へと入って行った。



吉原の中央を通る仲通りに面した美崎屋という茶屋に入った国芳とお滝は月のよく見える二階の部屋に上げられた。場所が場所だけにお滝は緊張を解かず国芳とも微妙な距離を置くが、国芳は全く気にした様子も無く台の物と銚子をやってきた若い衆に頼む。
そしてその若い衆と入れ替わるように一匹の三毛猫が部屋の中に入り込み、部屋の外から乙な声が聞こえてきた。どうやら国芳が頼んでいた人物が来たらしい。

「お待たせしました。この度はあたくし、芸妓の雅弥を指名してくださってありがとうござんす。今宵はごゆっくりお楽しみくださいまし。」

 低く、ほんのりと甘さを漂わせるその声を聞いて驚いたのは国芳ではなくお滝であった。

「も・・・・・もしかして、まさ辰姐さん?まさ辰姐さんじゃないですか!」

 驚きに満ちたお滝の声を聞き、雅弥と名乗った芸者も顔を上げて驚きの表情を見せる。

「あ・・・・滝吉ちゃん!あんたが何でこんな所に!」

二人は思わずにじりより、互いの手を取った。お滝の目の前にいたのは昔深川で世話になった姉分で、吉原に見世替えをした人物である。何を隠そうお滝は未だに雅弥に作ってもらった姉様人形の雛を裁縫箱に後生大事に取ってあるのだ。それほどの恩人が今、お滝の前に白襟芸者の姿で現れたのである。驚くなと言う方が無理であろう。

「・・・・・やっぱり思った通りだ。」

嬉しそうな国芳の声に、お滝は思わず国芳の方を振り向いた。

「思った通りって・・・・・?」

怪訝そうな表情を浮かべるお滝に対し、国芳は種明かしとばかりに事情を話し始めた。

「いやね、この前お師匠さんに吉原に連れてきて貰った時に雅弥姐さんとはお初だったんだ。で、姐さんが深川から吉原に来たって話をしてくれたんで『滝って名前の、猫好きで跳ねっ返りの妹分がいねぇか?』って聞いたら居たって言うんだよ。」

七割方の確信しか無かったけどよ、と付け足すのを国芳は忘れない。そんな国芳の言葉を繋ぎ、雅弥がようやくまともに喋り始める。

「あんたは昔っから捨て猫を拾っちゃあ、お師匠さんに怒られていたからねぇ。ま、あたしも人のことは言えないか。この子も店先に捨てられていた子だからねぇ。」

雅弥はちらりと一緒に入り込んだ三毛猫を一瞥し、涙ぐみながらお滝の手を強く握った。



昇りゆく十五夜に雅弥の三味線と乙な声が流れてゆく。お滝には申し訳無いが、やはり雅弥の方が腕は数段上だと国芳は思う。十五夜の月を愛でながら国芳はお滝と酒を酌み交わし、雅弥の三味線を堪能した。

「雅弥姐さんはいける口かい?」

雅弥の三味線が一曲終わったところで国芳は雅弥も酒を勧める。

「普段は頂かないんですけどねぇ。今日は滝吉ちゃんとの再開もお膳立てして貰ったことですし、特別ということで。」

雅弥は艶然と微笑みながら受け取った盃に口を付けた。そしてその盃を飲み干した瞬間、雅弥は二人にとって思いがけない言葉を口にしたのである。

「ところで滝吉ちゃん、こちらとはいい仲なのかい?」

何気ない雅弥の言葉であったが、国芳は口に含んだ酒でむせ、お滝は顔を真っ赤にして否定する。

「ね、姐さん!冗談はよしておくんなさいよ!孫三郎さんとわっちはそんな仲じゃないんだから・・・・・。」

慌てふためく妹分に、雅弥は何かを含んだ、艶っぽい笑みを見せた。

「ふうん。堅物のあんたが男衆に連れられて、のこのここんな所まで出向いてくるなんて以前じゃ考えられなかったことだけどねぇ。」

お滝の恥じらう姿を見つめながら、雅弥は何故か嬉しそうに三味線の弦をかき鳴らす。

「今の内に言っておくがいいさ。どっちにしろ、あんたたちの祝言には呼んでおくれよ。妹分の祝言で『高砂』を唄うのがあたしの夢なんだからさ。」

まるで決めつけたように言い放つと、雅弥は月明かりの中、再び乙な声を響かせ始めた。



UP DATE 2011.08.29


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今回の主役は猫達じゃなく、完全にお滝になってしまいました(^^;)
実はお滝の姉分・雅弥は三月の話にちらりと出ておりまして、お滝が大事に持っていた姉様人形の作り主なんです。(詳細は『猫絵師・国芳 其の参 雛絵の三毛猫』を参照してくださいませv)
そして偶然雅弥と出くわした国芳が半ば強引にお滝を吉原に連れてきたという訳です。八月十五日の紋日だったのは店側の策略でしょう(爆)。自動的に二日間通わなければならない十五夜&十三夜の紋日、どうしてもお客は避けますのでねぇ(爆)。九月十三日にも二人は雅弥の所に遊びに行くことになりそうです(^_^)
ただその話だとあまりにも手抜きですので、次回は紅葉狩りをテーマに、もう少しだけ踏み込んだ二人を書きたいな~と思います。

ちなみに次回更新は9月26日(月)となります。

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