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「紅柊(R-15~大人向け)」
壬辰・秋冬の章

待宵花魁の恋・其の貳~天保三年九月の情話(★)

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朝日が差し込むひさご屋の一室で、男は笑顔を見せながら空蝉に尋ねる。

「だったら今度の十五夜は空いているかい?その日なら必ず吉原に来ることが出来るんだ。もしあんたの身体が空いているんだったら・・・・・逢ってもらえないかい?」

 空蝉を買いながら結局一度も抱かなかった男----------加藤と名乗った若者はそう言い残すと、大門への見送りも断って早々にひさご屋を出て行ってしまった。
 勿論空蝉は大門まで後朝の見送りをしたいと申し出たのが、『先輩が他の見世にいるから』と店先での見送りになってしまったのである。

「加藤・・・・さま。」

 空蝉は切なげな眼差しで、いつまでも店先で加藤の背中を見送り続けていた。人混みの中でも頭半分飛び出して見えるほど高い上背の為、かなり長い時間見送ることが出来たが、店先までしか見送りを許されない寂しさは否めない。

「本当に・・・・・十五夜の日に予約を入れてくれたのかしら。」

 空蝉は急に心配になり慌てて見世に引っ込むと、帳簿を付けていた遣り手のヒサに八月の予約を確認した。

「ああ、加藤とかいう若造だね。安心おし、十五夜の夜見世の予約をしっかり入れて帰っていったよ。」

 今年の不作故か、なかなか十五夜の予約が入っていなかっただけにヒサはやけに嬉しげである。

「あの男、相当おまえにご執心みたいだね。あんたはしっかりしているから煩く言う必要も無いだろうけど、いつもみたいにあの若造からもしっかり搾り取っておくれよ、空蝉。」

 ほくほく顔で空蝉に笑いかけるヒサの言葉も、今の空蝉の耳には殆ど入ってこなかった。

(また・・・・・逢える。)

 空蝉を買っておきながら己の欲望を押しつけなかった男は加藤が初めてであった。しかも今度は気前よく吉原の大紋日である十五夜に予約を入れていってくれたのである。そんな侠気のためか、それともすらりとした見てくれの為か解らないが、空蝉は加藤に対して仄かな恋心を抱いてしまっていたのである。

(あきちは・・・・・遊女なんだから。遊女が客に惚れても、馬鹿を見るだけじゃないか。どんな男だって吉原に来る以上、遊びが目的なんだから・・・・・。)

 そう頭で理解していても、こみ上げる甘酸っぱい想いを抑えることは今の空蝉には出来なかった。
 空蝉が吉原に身を落としたのは十五歳の夏のことである。借金がかさみ、藩の金に手を付けてしまった父の不祥事の為に家が断絶になってしまったからだ。年齢が年齢だけに許嫁もいたが、不祥事を起こした家から嫁は貰えぬと婚約も破棄され、初恋さえ知らぬまま吉原に売られてしまったのである。
 遊女として働く為にはむしろその方が良かったのかも知れないが、加藤と出会ってしまったこの日、空蝉は知るべきではなかった恋を知ってしまったのだ。
 しかし、どんなに好きな相手がいても仕事は仕事である。自分に科せられた借金を返済しなくては自由はないし、そしてそれ以前に加藤に逢う為、十五夜のあつらえを自前で揃えなくてはならない。
 愛しい男の為に他の男と身体を重ね金を稼ぐ、という矛盾を抱えながら、空蝉は以前にも増して仕事に励んた。



 そして待ちに待った八月十五日、茜色から紫色へと染まり始めた吉原はいつもにも増して賑やかであった。
 清掻がかき鳴らされる中、十五夜の客を招く為若い衆は声を張り上げ、予約客のない娼妓達も客の袖に煙管を絡めながら必死に客を捉まえようとする。そんな中、空蝉は割り当てられた小さな部屋で加藤を待ち続けていた。
 夜見世に来るということは、きっと仕事が終わってから来てくれるのだろう。だんだんと暗くなりつつある夜空に浮かぶ、白っぽい十五夜の月を眺めながら加藤を待ち続けていたその時である。急に外が騒がしくなり、男達の怒声が飛び込んできたのだ。それだけなら吉原では日常茶飯事であるし、空蝉も気にさえ留めなかっただろう。しかし今回ばかりはそうはいかなかった。

「升田屋番頭平五郎!主人の娘との密通、および主を殺し店の金を横領したことは明白!諦めてお縄に付きやがれ!」

 聞き覚えのある若い男の声が騒ぎの方から聞こえてきたのである。空蝉は思わず部屋を飛び出し、表通りに面している二階の窓から外を見た。

「あ・・・・・加藤・・・・・さま!」

 その視線の先には十手を持ち、取り巻きに囲まれた恰幅の良い男に対し啖呵を切っている加藤の姿があった。その横には先輩なのか、三十代より少し前の同心が加藤と同じく十手を構えている。

「お・・・・・隠密廻り・・・・・・だったの?」

 加藤の正体が吉原の治安を守る隠密廻り同心だったことに空蝉は驚くが、それ以上に凛々しい姿の加藤の姿に見とれてしまった。そうこうしているうちに加藤の配下と思われる強面の岡っ引き達が男の取り巻き達をけちらしてゆく。

「あ・・・・・もしかして、十五夜って・・・・・。」

 次々に取り巻きが蹴散らされ、恰幅の良い男に加藤が縄を掛けるのを見つめながら空蝉はあることに気が付いた。
 加藤は、今縄を掛けられている男・平五郎が十五夜の大紋日に吉原にやって来ることを知っていたに違いない。でなければ『十五日に必ず来る』などとは言わないだろう。もしかしたらこの前空蝉を買った時も平五郎の偵察だったのかも知れない。
 つまり自分を今日買おうというのはこの捕物のついでであり、空蝉に対して興味を持ってくれた為ではなかったのだ----------加藤に対し、恋心さえ抱き始めていた空蝉は急に不安に苛まれ始めた。



 騒動から四半刻後、ようやく加藤が見世にやって来た。

「こちらでございます。どうぞごゆっくり。」
 
 若い衆に案内された部屋の中を見て、加藤は一瞬目を丸くする。全てが十五夜の調度に整えられた部屋の真ん中には、本来居るべきではない----------客が来た後で部屋にやって来るべき空蝉がちょこんと座っていたのだ。その表情が何とも言えず恨めしげな、そして不安げに見えて、加藤は少々動揺を感じる。

「お、もしかして待っていてくれたのかい?花魁に待ちぼうけを食らわせちまうなんて申し訳ねぇな。」

 動揺を悟られぬようにっこり笑いながら、加藤は空蝉の前に座り込むが、空蝉は不安げな表情のまま加藤に語りかける。

「加藤様・・・・・先程の捕物・・・・・。」

「何だ、あれを見ていたのか。ってことは俺の正体もばれちまったって事か。」

 はにかんだ笑みを見せながら加藤は頭を掻いた。

「ちょっと厄介なヤマで、火盗改の奴等と手柄を争っていたんだ。この頃じゃあちらさんのほうが吉原で顔を利かせているんで奉行所もお冠でさ・・・・・奴が昼見世から入り浸っていてくれて助かったぜ。」

「助かった・・・・・?」

 加藤の言っている意味が理解できず、空蝉は小首を傾げる。

「ああ。早く仕事を終わらせなけりゃこっちに割ける時間が少なくなっちまうじゃねぇか。早くお前さんに逢いたくて功を焦っちまったんだけど、案の定先輩に怒られちまって。」

 早くお前さんに逢いたくて----------加藤のその言葉に空蝉の表情が急に明るくなる。

「本当に?そう思ってくれたんですか?」

「当たり前だろう。でなけりゃ十五夜の捕物が終わった直後、先輩の誘いを断ってこっちに来る訳ねぇじゃねぇか。」

 加藤は急に真顔になり、空蝉の頬に触れる。

「この前は正直探索の為に、絶対に振られるだろうとこの店の一、二を争う売れっ子だっていうお前さんを選んだ。だけど、目の下に隈作りながら、それでも一生懸命客を取ろうとする健気さに惚れちまったのさ・・・・・こんなちんけな武左公なんて振っちまえばいいだけなのによ。」

 そう言って加藤は空蝉の唇の端に軽く接吻した。遊女にとって唯一、唇だけは己の惚れた相手に捧げられるものである。加藤はそこを気遣って唇を避けたのだが、何と空蝉は自分から加藤の唇に己の唇を重ねてきたのだ。

「あきち・・・・・私も・・・・・加藤様に惚れております。あんな風に気遣って貰えたのは・・・・・生まれて初めてなんです。」

 いつの間にか、売られる前の言葉に戻ってしまった空蝉は、切なげに加藤を見つめる。

「空蝉・・・・!」

 空蝉も自分に恋心を抱いてくれている----------その事を知った加藤は、空蝉の潤んだ瞳に吸い込まれるように、そのまま強く空蝉の華奢な身体を抱きしめた。



 ひさご屋の小さな女郎部屋にいるのは遊女と客ではなかった。互いに想いを寄せ合う恋人同士である。加藤は強く空蝉を抱きしめながら深く唇を重ね、空蝉の小さな舌に己の舌を絡めた。頭の芯まで痺れるような激しい接吻に加藤も、そして空蝉も夢中になり、獣のように互いを貪る。

「・・・・・月見の台の物は後ででもいいか?」

 長い接吻から空蝉を解放した後、外の若い衆の気配に気が付いた加藤は空蝉に尋ねた。その唇は互いの唾液でぬめり、十五夜の月明かりに艶めかしい光を留めている。

「・・・・・無粋な事を言わないでください。私の気持ちもご存じの癖に。」

 拗ねた目で睨み付けながら、空蝉は加藤の胸にしだれかかった。どこまでもしなやかで柔らかな空蝉の身体は燃え上がりそうな程熱を帯び、加藤を欲している。空蝉は加藤の羽織の紐を解きながら、潤んだ瞳で早く抱いて欲しいと加藤に訴えた。

「じゃあ褥にいこうか・・・・・おい、台の物は一刻後に持ってきてくれ。手間を掛けさせて申し訳ねぇ。」

 若い衆にそう声を掛けると加藤は空蝉をひょい、と抱え上げ、あまり上等ではない布団の上に空蝉を横たえた。そして羽織を脱ぎ捨てると空蝉の横に滑り込み、細身の身体を引き寄せる。

「空蝉・・・・。」

 加藤は空蝉の顎に手をやると、己の唇を再び空蝉の唇の上に落とした。蕩けるように柔らかい空蝉の唇を貪りながら、加藤は空蝉の簪を外し、もどかしげに空蝉の帯を解く。そしてその緩んだ袷から、恐る恐る節くれ立った手を空蝉の胸に差し入れた。決して豊かとは言い難い乳房だったが、それでも若い娘特有の張りを持つ。その膨らみに触れた加藤は壊れ物を扱うようにそっと空蝉の胸を揉みしだく。

「ふぅん・・・。」

 加藤に口腔を蹂躙され、乳房を嬲られながらも、空蝉は必死に快楽を訴えた。細い腕を加藤の背に回し、脚を絡めながら空蝉はさらに加藤を求めてゆく。空蝉の太腿には下帯越しでもはっきり解る、加藤のこわばりが感じられた。どくどくと脈打つそれが早く欲しくて、空蝉ははしたないと思いつつも加藤の帯の結び目に指をかける。

「・・・・・ああ、帯を解くのも忘れちまっていたな。」

 空蝉の手の動きに気が付いた加藤が、空蝉の唇を解放しながら苦笑いを浮かべた。そう言いながらも加藤はそのまま空蝉に帯を解かせ、自分は空蝉の首筋や耳朶に舌を這わせる。そして乳房を揉みしだいていた手を徐々に下ろしながら脇腹や臍、そしてさらに下へと愛撫の手を伸ばしてゆく。

「加藤様・・・・そこ・・・・・はぁん。」

 いつの間にか敏感な花弁に進んでゆく加藤の手に空蝉は甘ったるい声を上げる。そしてぷっくりと充血した花芽に加藤の指が触れた瞬間、空蝉の身体がびくん、と跳ね上がったのだ。

「か・・・・加藤さ・・・・まぁ・・・・・ああっ!

 決して強く触れられた訳ではない、むしろ触れるか触れないかというくらいそっと触れられたにも拘らず、そこから全身に快感が走ったのである。
 このような激しい痺れに近い感覚は、遊女になっから----------男を知ってから初めて知るものであった。空蝉はその激しすぎる快感が恐ろしく、思わず加藤にしがみついてしまう。

「おいおい、気を遣るにはまだ早いぞ。まだ、殆ど何もしちゃ居ないんだから。」

 耳朶を甘噛みしながら舐る加藤は、さらに優しく空蝉の花芽をこすり続ける。

「か・・・・堪忍・・・・・これ以上されたら・・・・・あんっ、許してぇ!」

 次々と襲いかかる快楽に恐怖さえ感じてしまった空蝉は、一旦加藤の手から逃れようと腰を揺するが、それが誘い水となって加藤の指はさらに奥に----------とろりとぬめりを帯びた、熱い蜜を滴らせている蜜壺へと侵入してきた。

「・・・・・花魁は生蝋、ってバレ句じゃ云われているけど、これじゃあ駄蝋だな。こんなにとろとろにしちまって。」

 くちゅり、と卑猥な音をわざと響かせながら加藤は囁く。確かに空蝉のそこは駄蝋と揶揄されても仕方がないくらいとろとろに蕩け、加藤の手をぐっしょりと濡らしていた。

「俺はむしろこっちの方が好みだけどな・・・・・だけど、ここまで濡らすのは俺だけにしてくれよ。」

 ほんの少し嫉妬が入り交じった加藤の言葉に、空蝉は頬を赤らめながらも頷く。

「加藤様・・・・・・早う・・・・・。」

 指での愛撫も心地良いが、空蝉は早く加藤とひとつになりたかった。恥じらいも忘れて加藤の逸物をせがむが、加藤はそんな空蝉を焦らすようにさらに指淫を続けてゆく。

「一度おまえさんの気を遣ってからだ。いつもは男に奉仕しているんだから、たまには男を傅かせるのも悪く無いだろう。」

 そう言って加藤は一度指を離すと、空蝉の脚の間に身体をずらし、秘められた場所に唇を付けたのである。

「や・・・・止めてください!そんなところ、恥ずかしい・・・・・ああんっ!」

 加藤の舌が空蝉の花芽を舐め上げた瞬間、先程の痺れさえ生ぬるく思えるほどの快感が襲いかかり、空蝉は甲高い嬌声を上げながら一気に気を遣ってしまった。



UP DATE 2011.09.12


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久しぶりに『エロ』って感じのエロを書かせて戴きましたvしかしやっぱり書き続けていないとエロは腕が落ちますねぇ(>_<)殺陣にも言えることなのですが、二人(それ以上)の位置関係を把握しながら動きを追っかけていく描写は文章の中で一番難しいです。絵でも同様のことが言えるんですけどねぇ(^^;)
エロが上手=文章が上手な作家さんだと思って間違いないですよ~。(ひどい作家のは擬音だけで誤魔化されますし・笑)

謎の男=加藤の正体は吉原の治安を守っている隠密廻り同心でした。隠密、とはありますが、ごく普通に大門の所に番所がありますし、吉原の妓楼の店主達には顔を知られております。さすがに見世から滅多に出ない遊女は知らないでしょうけど・・・・・さらに加藤は二十歳そこそこの年齢ですので、もしかしたら殆どデビューに近い状態なのかも知れません。だから面が割れていなかったのかも(笑)


ようやく褥に入る事ができた二人ですが、何故この二人がこの後十年も逢えず、空蝉が待宵と源氏名を変えることになってしまったのか。さらに待宵花魁の小指のエピソードの話も次回させて戴きます。更新予定日は9/19ですv
(祝日ですが・・・・頑張ればたぶんいつもの時間に更新できますv)
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