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「紅柊(R-15~大人向け)」
壬辰・秋冬の章

待宵花魁の恋・其の参~天保三年九月の情話(★)

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ひさご屋の小さな部屋に、空蝉の荒い息づかいが響く。加藤の口淫に昂ぶり、一気に気を遣ってしまった空蝉は褥の上にぐったりと身体を投げ出していた。
 普段娼妓は客に前戯をさせることはない。いちいち客の愛撫に感じていたら身体が持たないし、複数の客を同時にあしらう『廻し』も出来なくなってしまうからだ。
 しかし、今日だけはただ一人、加藤だけを相手にすればいいだけに空蝉にも隙があったのだろう。空蝉を本気で感じさせようとする加藤の愛撫に翻弄され、空蝉はあられもなく絶頂に昇りつめてしまったのである。
 火照った身体に汗が滲み、額や頬に後れ毛がへばりつく。だが、その汗は決して不快なものではなかった。

「空蝉・・・・大丈夫か?」

 いつの間にか空蝉の脚の間から這い上がってきた加藤のたくましい胸に、空蝉は優しく抱きすくめられる。その暖かさ、そして本当の恋人のような扱いに空蝉はうっとりとし、意外とがっしりとした加藤の首筋に柔らかな頬をすり寄せた。その手管ではない、自然に出た甘え仕草に加藤は堪らなくなり、空蝉を抱いていた腕に力を込める。

「すまねぇな。あまりに可愛い声で啼くモンだから、つい可愛がり過ぎちまった。」

 加藤は空蝉の細い顎に指をかけると、その小さな顔をくいっ、とあげて軽く唇を重ねた。その唇を逃すまいと空蝉は加藤の首に腕を回し自ら進んで舌を差し入れる。柔らかい空蝉の小さな舌はぬるりと加藤の唇を割り、加藤の舌を素早く捉まえると、まるで赤子が母親の乳を吸うように強く吸いはじめた。
 加藤の全てが欲しい----------積極的に舌を絡めながら、空蝉は強く思う。艶めかしい濡音を響かせながら空蝉の手はするりと加藤の脚の間に滑り込み、熱を持って強張っている逸物を下帯から引っ張り出した。細い指が加藤の逸物に絡みつき、その手の中で加藤の逸物は熱く脈打つ。

「加藤様だって、こんなにして・・・・・。」

 空蝉は唾液に濡れた唇を加藤の唇から離すと、手の中にあるものを弄びながら潤んだ目で加藤を見つめる。
 先程気を遣ってしまったものの、空蝉の身体の奥には埋み火のような欲望が潜んでいた。その全てを焼き尽くさなければ満足を得ることは出来ないだろう。空蝉は細い指を加藤の逸物に絡ませ、挑発するように擦り始める。

「おいおい、俺のモンは玩具じゃないんだぞ。」

 加藤は笑いながらも暫く空蝉がするがままにさせていた。空蝉の手の中で脈打つ逸物は暫くすると透明な先走りを滲ませ空蝉の指を濡らし始め、脈動も強くなってゆく。
 最初こそ余裕を持っていた加藤だったが、さすがにそこまでされると限界も近くなってきてしまう。これ以上愛撫を受けたら空蝉の手の中で果ててしまうという失態を犯しかねない。
 加藤はやんわりと空蝉の行為を止めると、そのまま急くように空蝉に覆い被さった。そしてどくどくと脈打つ逸物を空蝉のぬかるんだとば口に宛がう。その瞬間空蝉はあることに気が付いた。

(あ・・・・・詰め紙、忘れちゃった。)

 避妊の為に秘所にあらかじめ入れておくべき詰め紙を、入れ忘れてしまったことにこの期に及んで気が付く。だが、この流れを遮るような興ざめな真似はしたくなかった。否、もしかしたら空蝉は心の奥底で加藤の全てを受け入れたいと望んでいたのかも知れない。
 ゆっくりと、空蝉の身体を引き裂くように侵入してくる熱く滾った熱棒に陶然としながら、空蝉は加藤の背中に細い腕を回した。

「空蝉・・・・・。」

 深く、空蝉の身体に己の逸物を打ち込んだ加藤は再び空蝉の唇を塞いだ。激しく、ただひたすらに----------十五夜の光に照らされながら二人はひたすら互いを貪り続ける。これ以上はないという位硬く、大きくなった加藤の逸物に空蝉の蜜壺が絡みつく。娼妓とは思えぬ締め付けは、男の全てを搾り尽くそうとする女の本能のなせる技なのか。隠密廻り同心の役得ゆえ、年齢の割には女を知っている加藤でさえも耐えられず、まるで女を初めて味わう童貞の青年の如く一気に限界を迎えつつあった。

「もう、耐えられそうもねぇや・・・・・・そろそろ、いくぞ。」

 加藤の腰の動きがさらに早くなってゆき、その腰使いに煽られるように空蝉は本気の嬌声をあげながら加藤にしがみつく。

「私も・・・・・気を遣ってしまい・・・・ああっ!」

 切なげな、甘い声が空蝉の形の良い唇から零れ落ちた瞬間、空蝉の蕩けきった中心に熱いものが弾け散った。



 月明かりとは明らかに違う明かりが障子を染める頃、夜通し情を交わし合った恋人達は互いの肌の温もりを感じていた。

「空蝉・・・・・惚れている。」

 生まれたままの姿で抱き合いながら、加藤は熱に浮かされたように囁く。十五夜の月は既に色褪せ、明け烏の鳴声が遠くから聞こえてくる中、空蝉も幸せそうな笑みを浮かべながら加藤の耳許に唇を寄せた。

「私も・・・・・加藤様のことを慕っております。」

 たとえ吉原に売られていなかったとしても、幕臣である加藤と小藩の陪臣の娘である空蝉では夫婦になる事は不可能だ。それどころか、出会うことさえなかったであろう。空蝉が吉原に売られてしまうという不幸があったからこそ加藤に出会え、情を交わすことができた皮肉な運命に、空蝉は初めて感謝した。

「絶対に身請をしてやるから・・・・・四年、いや、五年待っていてくれねぇか。」

 他の客なら社交辞令だと受け流すであろう言葉であったが、加藤の言葉には、はっきりと解る真剣さが含まれていた。その真摯さを感じ取ってしまった空蝉は眉を顰める。

「加藤様、無理はなさらないでくださいませ。いくら普通より実入りが良い隠密廻り同心とはいえ、遊女を身請するお金なんて・・・・・。」

 空蝉自身は十五両の借金を抱えてひさご屋に売られている。その他季節の着物などの借金を合わせれば二十両近くになるだろう。さらに身請となればこれらの借金に空蝉が娼妓を続けていれば稼いだであろうという金額が上乗せさせられるのだ。だが、空蝉の心配を他所に加藤は平然と言い放った。

「小見世の娼妓の借金ならせいぜい二十両くらいだろう?上乗せさせられる分も含めて百両くらいまでなら何とかなるさ。それに・・・・『お家の理由』っていうのもあって、できることなら妻じゃなく妾を囲いたいんだ。妻にしてやれねぇで申し訳ねぇけど、俺の妾になってくれねぇか?絶対浮気はしねぇからさ。」

 空蝉の髪の毛を撫でながら加藤は空蝉を口説く。妻を娶らない男にとって妾は事実上の正妻と変わらない。その言葉が嬉しく、空蝉は初心な生娘のようにはにかんだ笑みを浮かべた。

「もう、そんな事言って・・・・・後で後悔しても知りませんからね。」

「嘘じゃないさ。俺のモンはお前相手にしか役に立たないんだから・・・・・だったら確かめてみるか?」

 そう言って加藤は空蝉の手を取り、己の逸物に触れさせる。加藤の逸物は夜通し何度も精を吐き出したにも拘わらず力を漲らせ、空蝉を欲していた。

「もう・・・・。」

 顔を赤らめながらも空蝉も身体をすり寄せる。もうじき大門が開く時間も近い。大門が開く時間まであともう一度----------明るさを増しつつある小部屋に二人の荒い息づかいが響きだした。



 開け放った窓からさぁっ、と吹き込んだ秋の風が幸の頬を撫でてゆく。その意外なほどの冷たさに幸ははっと我に返った。ここはみすぼらしいひさご屋の小部屋ではなく、恵比寿屋の豪奢な本部屋なのだ。そして目の前にいるのは小見世の若い娼妓ではなく、今をときめく恵比寿屋の御職である。

「・・・・・その後、二、三度ほど加藤様と逢いなんした。しかし・・・・・。」

 ほろり、と待宵花魁の目から涙が零れる。

「わきちが加藤様に夢中になり、あのお方を情人として見世に引き入れるまでは見世も多めに見てくれなんしたけど、務めが疎かになり馴染みが一人減り、二人減りした頃・・・・・十三夜を前に加藤様はおはきもん扱いになりぃんした。」

 おはきもんとは、見世が相手にしなくなった客のことであるが、娼妓が情夫扱いして見世の為にならない客などもこの扱いを受ける。つまり加藤は出入り禁止になってしまったのだ。
 売れっ子の遊女が夢中になり、仕事がおろそかになってしまえば見世の売り上げにも関わってくる。いくら隠密廻り同心とは言え----------否、痛くない腹を探られかねない隠密廻り同心だからこそ、見世は加藤を拒絶したのである。

「その後、一通だけ見世から加藤様からの手紙を通してもらいんした。『仕事ぶりが認められ、奉行所務めに出世した。隠密廻りの時より実入りは少なくなるから時間はかかるが、必ず迎えに行く。』と・・・・・その時にわきちは誠を証明する為に小指を切って心中立てを・・・・・・!」

 言いかけた待宵花魁は急に咳き込んだ。その瞬間、口許を抑えた白魚のような指の間から彼岸花のように真っ赤な血が一筋、つつっ、と流れる。

「花魁・・・・・!」

 幸は待宵花魁に近寄り、背中をさする。

「今、若い衆を呼んできましょうか?それとも女将の方が・・・・・。」

 ようやく咳が落ち着いたのを確認すると、幸は見世の者を呼ぼうとしたが、それを止めたのは他でもない待宵花魁であった。

「・・・・・だ、大丈夫でありんす。」

 大丈夫----------そうとは思えない真っ青な顔で待宵花魁は幸に微笑んだ。口の端から流れた血を懐紙で拭きつつ、待宵花魁はさらに話し続ける。

「いつか加藤様が迎えにきてくれるのでは・・・・・今日か、それとも明日か・・・・・そう思って身請話も断ってきぃんしたのに、胸をやられて・・・・・。」

 苦しげな息の下から待宵花魁は喋り続ける。見世の格からすると恵比寿屋に病持ちの客が入り込むことは極めて考えにくい。たぶん前の見世でうつされた労咳が今になって出てきてしまったのだろう。

「・・・・・今度、労咳用の浅右衛門丸を持ってきます。形の悪いものでしたら格安でお譲りできますから、花魁の借金には響かないと思います。」

 目に涙を浮かべながら幸は自らが製造している薬の提供を申し出る。

「ありがとなんし、お幸ちゃん。」

 血を吐くようになってしまえばどんな薬も役には立たない。それは幸も、そして待宵花魁も解っていた。もしかしたら待宵花魁は己の最期が近いのを覚悟して幸に加藤の話をしたのかも知れない。

「花魁。もしかして待宵という源氏名の由来は・・・・・。」

 幸はふと思い立ち、待宵花魁に尋ねる。

「加藤様をお待ちして、幾夜も幾夜も・・・・・ひたすらあの方が来てくれる宵を待ち続けていんす。そんなこんなであっという間に十年も経ってしまいんしたけど。」

 一瞬だけ、待宵花魁は空蝉に----------華やかな男の極楽に君臨する天女ではなく、たった一人の男を待ち続ける一人の娼妓の顔になる。
 加藤をひたすら想い続け、一体何百の男の相手をし、自分を犠牲にしてきたのだろうか。待宵花魁のあまりにも残酷な運命に、幸の胸は熱くなった。



 使いが終わり恵比寿屋を後にした幸は、丁度大門のところで千住の刑場からそのまま繰り出してきた浅右衛門一門の連中と鉢合わせした。その刹那、幸の顔に笑みが零れる。

「あ、利喜多さん!月代、剃ったんですね!」

 昨日まであった前髪は無くなっており、剃りたての初々しい月代の利喜多は、照れ臭そうに自らの頭を撫でた。

「なかなか似合うだろ?こいつもようやく大人の仲間入りだぜ!」

 そう言いながら利喜多の肩を抱いたのは五三郎であった。どうやら元服祝いと称して吉原に繰り出しにきたらしい。

「五三郎兄様、あまり遅くならないようにしてくださいね。それでなくても川越藩の門限は厳しいんですから。元服早々上役に怒られたんじゃ利喜多さんが気の毒です。」

 幸はやんわりと五三郎を窘めると大門の近くに止っていた宿駕籠に声を掛け、それに乗り込んだ。

(うちの門弟達じゃあ、待宵花魁と『加藤様』っていう同心のような恋は出来ないんだろうなぁ。っていうか、浅葱裏扱いが関の山のような気がする・・・・・。)

 馬鹿騒ぎをしながら仲町通りを闊歩してゆく門弟達を駕籠の窓から見やりながら、幸は軽く溜息を吐き、吉原を後にした。



UP DATE 2011.09.19


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『待宵花魁の恋』完結編です。一生に一度の恋に巡り会えたのに見世によって引き裂かれ、男の『身請するから待っていてくれ』という言葉をひたすら信じて待ち続ける----------決して珍しい例ではなかったと思います(T_T)。
それでも年季が明け、借金も返済できる売れっ子であれば『紺屋高尾』のように相手の所に押しかける事も出来るのでしょうが、病になってしまった待宵花魁にはそれさえも許されないのです。
果たして悲劇の御職の運命は如何に・・・・・この続き、というか元・隠密廻り同心・加藤sideの話は11月に予定しておりますので宜しかったら暫くお待ちくださいませね。(必然的に11月の話は大人向きとなります・笑)

そして来週の拍手文更新を挟んで10月はようやく六代目浅右衛門・吉昌が主役の『紅葉山御陵屋掃除役~天保三年十月の密命』が始まります。何せ影も頭も薄いおっさんの話ですので色っぽさは欠片もありませんが、紅柊のキーとなる話ですので宜しかったらお付き合いのほどよろしくお願い致します。
(多少はサービスシーンも入れたいんですが・・・・・どうでしょう・苦笑)

次回『紅柊』更新は10/3、23時を予定しておりますv

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