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「紅柊(R-15~大人向け)」
壬辰・秋冬の章

紅葉山掃除之者・其の参~天保三年十月の密談(★)

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あれほど煩かった蝉時雨もいつの間にか聞こえなくなった秋の日、真由は父親である山田浅右衛門吉睦に呼び出され、その枕辺に座っていた

「父上様・・・・・どうしても新實さんと再婚しなくてはならないのですか?」

 病床の父親に対し、真由は悲しげな表情で訴える。

「まだ、彦次郎さん・・・・・・いいえ、旦那様の三回忌が先月終わったばかりなのに、再婚なんて考えられません。それに・・・・・失礼を承知で申し上げさせていただくなら、新實さんはどことなく薄気味悪いんです。他の方ならどなたでも文句は言いません。あの人との再婚だけはご容赦くださいませ。」

 彦次郎と結婚する前から新實益五郎はじっとりと、絡みつくような視線で真由を見つめていることが多々あった。そして彦次郎が死んでからは事あるごとに真由に話しかけてきたり、家業の製薬を手助けしようと近寄って来たりするのだが、そのどれもが単なる親切心の域を超えたものなのだ。
 この男に近づいてはならない----------理性ではなく本能の奥底の部分から来る警鐘のまま、真由は自分の再婚を考え直して欲しいと訴えるが、吉睦は病床に横たわったまま首を横に振った。

「我が儘を言うんじゃない、真由。新實は門弟の中では二年前に死んだ源五郎に次ぐ腕の持ち主だし、母方の実家が薬種問屋なだけに製薬にも通じている。しかも未亡人のお前を是非妻にと言ってくれているのだぞ。山田家の跡取りとしてこれ以上の者はおらぬだろう。それに・・・・・。」

 吉睦は急に咳き込み、苦しげに呻く。真由は慌てて吉睦を抱き起こすと、傍にあった薬湯をゆっくりと飲ませた。そして咳がようやく落ち着いた後、吉睦は心の底から訴えるように真由に語りかける。

「・・・・・この身体では儂も半年も持たないだろう。真由、これ以上儂に心配を掛けさせないでおくれ。」

 ここ最近床に伏せることが多くなってきた父親にそう訴えられては何も言い返せない。しかも先の結婚では好きだった彦次郎と結婚させて貰っているだけに、真由はこれ以上の我が儘は言えなかった。

「・・・・・承知いたしました。父上のお言葉のままに。」

 これも山田家の為----------真由は観念し、不本意な再婚を受け入れてしまった。



 真由と新實益五郎の祝言は、真由が再婚であり吉睦の体調が思わしくないということから初冬の小春日和の日を選んで比較的簡素に行われた。しかしその分、初夜の褥は真由にとって吐き気を催すほど執拗で、忌まわしいものであった。

「どれほどこの日を待ったことか・・・・・真由殿、惚れておる!」

 初夜の床でそう叫ぶなり真由の身体にむしゃぶりついてきた。彦次郎とは違い、己の欲望のまま獣のように真由の身体を蹂躙してゆく強引なやり方に真由は絶望感しか感じることができない。

「子をなしているとは思えぬほど若々しく、美しい・・・・・。ここまで滑らかな肌とは、さぞや源五郎の奴は草葉の陰で悔しがっているでしょうな。」

 勝ち誇った笑みを浮かべながら益五郎は真由の乳房を乱暴にこねくり回し、柔肌を舐め回していく。その感触はまるで蛞蝓が這っているようで、そのおぞましさに鳥肌が立ってしまう。

「おや、鳥肌なんか立てて寒いのですか?だったら抱きしめて温めて差し上げましょうかね。」

 真由の鳥肌に気が付いた益五郎は、己の身体の下に組み敷くように真由を抱きすくめた。その瞬間、吐き気を催す体臭が鼻につき真由は顔をしかめる。

(旦那様・・・・・彦次郎さん、助けて。)

 今は亡き前夫に助けを求めてもその声は届かない。家の為とは言いながら好きでもない、否、むしろ気味悪いとさえ思っている男に身体をいいように苛まれながら真由は心の中で助けを求めるが誰も助けてはくれないのだ。

「ほぉ、真由殿の秘め所は御職の花魁のように上品と見える。まるで生蝋の如き、ですな。」

 益五郎は遠慮無く真由の秘所に手を突っ込み、全く濡れていない花弁や蜜壺を強引にこじ開けてゆく。その痛みに真由は唇を噛みしめ必死に耐えるが、その痛みは益五郎の逸物が乾いた蜜壺に強引にねじ入れられる事でさらに激しくなる。

(いや・・・・・いや・・・・・いや!!)

 自分の身体の上で獣のように蠢く益五郎が何か語りかけているが、その声さえも真由の耳には届かない。この忌まわしい時間が早く終わって欲しい----------真由の願いはただそれだけであった。
 出来ることなら自分の上で卑猥な笑みを浮かべている益五郎を押しのけ、逃げ出したい衝動に駆られるが、家の為にこの苦痛に耐えなければならない。御様御用を任される『山田浅右衛門』家を自分の代で絶やしてはならない----------ただ、その責任感だけで真由はおぞましい行為にただひたすら耐え続けた。



 新實益五郎改め山田源六は、山田家の本業である試し斬りでも、副業である『天寿慶心丸』を始めとする製薬においても入り婿として滞りなく務めを果たした。それもこれも真由の歓心を買おうとしたからに他ならない。
 だが、源六が頑張れば頑張るほど真由は心を閉ざしていく。そしてそれは五代目浅右衛門が病でなくなった文政六年の夏以降、特に顕著になっていったのである。二人が結婚して三年が経つ頃には『幸がいるから』といつの間にか寝室は別になり、隣の部屋には源六を警戒するように使用人や下女が真由母娘を守るように寝るようになった。
 そんな真由の態度に苛立った源六は徐々にその凶暴さを真由に向け、事あるごとに暴力を振るい真由を従わせようとするようになったが、それでも真由は怯える素振りさえ見せなかった。
 そんな険悪な状況が続いていたある日、真由は父・吉睦の親友でもあり、実の叔父以上に慕っている後藤五左衛門に相談を持ちかける。

「五左衛門のおじさま。どうしたら夫から三行半を奪い取ることが出来るでしょうか。父の遺言でしたけど・・・・・もう耐えられません。」

 そう訴える真由の頬にははっきりとした青痣が浮かんでいた。ちょっと見には解らないが体中至る所に怪我が絶えないらしい。その暴力は常軌を逸していて、時には門弟達や後藤自らが止めに入るほどであった。
 この源六の尋常ならざる暴力沙汰は、単に夫婦仲の問題だけではなく、六代目を継ぐ者としての素質にも欠けるのではと先代からの高弟達同士で話し合いを始めていたところでの真由の申し出である。五左衛門は一も二もなく頷いた。

「なるほど、自分の身分の保障無くして三行半は書けない、というところだな。だが、あれは六代目として問題だろう・・・・・解った。ならば儂と数人の門弟立ち会いの下、三行半を書かせよう。そうだな、須藤梅之助と遠藤八郎あたりを立会人にすれば、いくら手練れでも妙な真似はしないだろう。特に遠藤は幕臣だ。そういった意味でも重みがあるだろう。」

 ちなみに遠藤八郎は後に六代目となる吉昌のことである。そんな力強い後藤の提案に真由の顔がようやく晴れ渡った。

「おじさま、ありがとうございます!この御恩は一生忘れません!」

 五左衛門に礼を言う、嬉しげな真由の声を聞いている者がいるとも気が付かず、真由は離縁が成立したかの如く喜んだのだった。




(真由と・・・・・離縁・・・・・!)

 真由と五左衛門の会話を盗み聞いた源六は、愕然としながら肝蔵へと引きこもった。

(彦次郎の奴を殺してまで、やっと手に入れたのに・・・・・あの死に損ないめ!ろくでもない提案をしやがって!)

 逆恨みに燃える瞳をぎらぎらさせながら、源六は蔵の戸棚の奥から『天寿慶心丸』の原料のひとつでもある修治される前の附子を取り出した。

「ふふふ・・・・・これだ。」

 附子の束を手にしながら源六はほくそ笑む。漢方ではトリカブト属の塊根を附子と称して薬用にするのだが、塊根の子根を『附子(ぶし)』、親根の部分は『烏頭(うず)』、子根の付かない単体の塊根を『天雄(てんゆう)』と言って、それぞれ運用法が違う。
 附子には強心作用、鎮痛作用があり、、牛車腎気丸及び桂枝加朮附湯では皮膚温上昇作用、末梢血管拡張作用により血液循環の改善に有効である。
 しかし、毒性が強いため、附子をそのまま生薬として用いることは殆どなく、『修治』と呼ばれる弱毒処理が行われる。
 山田家の製薬においても『天寿慶心丸』などの高級品には弱毒処理を施されたものを使うのだが、源六は附子をそのまま薬研に附子を放り込み、砕き始めた。

「死なばもろとも、だ。こいつを将軍に献上し、毒に中れば将軍家御様御用拝命の家だってただじゃ済まないだろうよ。否、将軍家だけじゃなく御三家や他の大名家にも献上すれば・・・・・ふふふ、面白いことになりそうだ。」

 弱毒処理を施さない附子をそのまま練り込んだ丸薬を作り上げると、にやりと笑いながらそれを見つめる。

「とりあえず途中まで仕上げてある刀剣の押型を完成させるまでは時間が稼げるな。それまでにもう少し改良を加えないと・・・・・すぐに死んでしまうんじゃ面白くない。」

 自ら作り上げた丸薬を見つめるその表情は、血に飢えた悪鬼そのものであった。



 次の日、源六は五左衛門等に呼び出され離縁を切り出された。その際、五左衛門達は源六が取り乱し、暴力沙汰になるかも知れないと身構えていたのだが、源六はやけに大人しく離縁の申し出を受けたのだ。

「承知いたしました。真由殿がそう思われているのであれば致し方がございません。しかし、途中まで仕上げている押型・・・・・あれだけは仕上げさせて戴くことを許して貰えぬでしょうか。」

 その申し出に男達は顔を見合わせる。確かに膨大な刀剣の管理をするに際して押型は非常に有効だ。そしてその押型はすでに七割方完成していた。それを完成させるくらいは構わないだろうという空気があたりに流れる。

「ならば三ヶ月ほどあれば良いな?それまでに完成できなければ途中であっても離縁の届けは出させて貰う。」

「承知しました。」

 三ヶ月あれば計画を遂行するのに充分すぎるほどである。源六は大人しく五左衛門達の申し出に従う振りをした。
 そして離縁までの三ヶ月間、真由は源六と顔を見合わせぬよう平河町八丁目に家を借りてそこに幸と共に住むことになったのだが、その事が源六の悪巧みを助長することになったのである。
 真由達家人が寄りつかないことを良いことに、稽古がない日は堂々と毒薬作りに精を出し始める。将軍暗殺による山田家取り潰し計画の第一歩が踏み出されたのは、この別居生活が一因であったのは皮肉なことであった。



『長吏やひにんの子供らが毒菓子を盛られて死ぬ事件が相次いでいる。』

 そんな噂が立ち始めたのは、真由母娘が八丁目の別宅に移ってから一ヶ月後のことであった。最初聞いた時は単にひどい人間もいるものだと思っていたが、そんな事件が何件も続くのでさすがに不安になる。

「真由、幸坊に迂闊なものを与えたりしておらぬだろうな?」

 五左衛門が真由を心配し、下の息子の五三郎を連れて八丁目の別宅にやってきた。幸より七歳も年上の五三郎は、まるで弟を相手にするように幸をこねくり回すが、当の幸も、そして母親の真由も気にした風もなく男の子のように遊ばせている。

「ええ、ここ最近ではお竹が作った団子くらいしか菓子らしいものは与えておりませんので・・・・・。」

「今はひにんや長吏達の子、浮浪児などが餌食になっているようだが、いつ町人や武家の子に手が及ぶか解らぬ。特に五三郎の奴は十を超えているのにすぐに何でも貰おうとするから気が気でない。」

 呆れ顔の五左衛門に真由は屈託のない笑顔を見せる。しかし、次の五左衛門の言葉を聞いた瞬間、真由の表情は急に曇りだした。

「そうそう、どうやら毒の主な成分は附子らしいと奉行所の奴等が言っていた。子供らの死に方からすると、もしかしたらあと何種類か混じっているようだが・・・・何か思い当たる節があるのか、真由?」

「・・・・・・いいえ、何でもありません。附子なんて厄介な薬、どこで手に入れるのでしょうね。」

 五左衛門を心配させまいと真由はとりとめのない返事をしたが、実は先日、やり取りのある薬種問屋から『今回は修治をしたものではない、生薬の附子なんですね?』との問い合わせがあったのである。だが、その事は五左衛門には言い出せなかった。

「私も幸も重々気をつけたいと思います。五左衛門おじさま、ありがとうございます。」

 五左衛門にこれ以上心配をかけてはならないと笑顔を見せつつ、真由は深々と頭を下げた。



 五左衛門から子供達の毒殺の話を聞いた三日後、小伝馬町で死罪があるとのことで男達は出払っていた。その間隙を縫って真由は下男の寅助を引き連れて二丁目にある本宅へ侵入する。

(私がこの家を空けてしまったのが間違いだったのかも知れない・・・・・。)

 真由は寅助を台所近辺で待たせると自分一人で肝蔵へと入り込み、生薬を保管しておく戸棚を片っ端から調べ始めた。

「やっぱり・・・・・。」

 引き出しのひとつに、乾燥させただけの附子の束が放り込まれていた。それは明らかに山田家本来の附子の使い方ではない。

「そもそもうちの薬に修治されていない附子なんて使わないんだから・・・・・やっぱりあの男とは離縁して正解よね。」

 真由は附子の束を懐に入れると、この事実を奉行所に知らせる為肝蔵を出ようと扉を開けようとした。しかし、真由が開けるより早く何者かが扉を開けたのである。

「あ・・・・・!」

 扉の向こう側にあったその顔を見て、真由の表情が強張る。そして思わず一歩後じさってしまう。

「ちょいと忘れ物をして屋敷に帰ってみれば、泥棒猫のお出ましかい・・・・・いくら惚れた女でも、この事がばれちゃあいかしておく訳にはいかないな。」

 真由の懐からちらりとはみ出している附子の根を確認しながらにたり、と病的な笑みを浮かべ、源六は腰に差した刀をゆっくりと抜きはなった。



UP DATE 2011.10.17


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益五郎こと山田源六による将軍暗殺未遂事件は、どうやら『山田家取り潰し』を狙ったものだったと判明いたしました。しかも将軍だけでなく、他の大名家にまで毒薬入り丸薬を送り込もうとしていたとは・・・・・ここまで来ると単に立場を利用した愉快犯としか思えません(>_<)

それもこれも、ようやくものにした真由と離縁させられる事への逆恨みからなんですが、そもそも後釜に居座った際に彦次郎を毒殺しておりますからねぇ。それでも彼なりに努力した形跡(試し斬りだとか製薬は一生懸命だったらしいです、史実では)はあるのですが、女性ならではの『生理的に受け付けない』というものにひっかっかってしまったのでしょう。そりゃ下心丸出しでじと~って見つめられていれば大抵のオナゴはどん引きです(笑)。


次回更新予定は10/24、刀を抜きはなった源六を前にした真由の悲劇、そしてその後何故吉昌が山田家を継ぎ、未だに益五郎を追っかけているのか・・・・・『紅葉山掃除之者』最終話になりますv
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