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「短編小説」
猫絵師・国芳

猫絵師・国芳 其の拾貳・煤払い後の祝言猫

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十二月十三日は江戸に於いて煤払いが行われる日である。本来は将軍家御営中煤払いの定日なのだが、『将軍様のやることならば』と真似したがる江戸っ子がそれに乗っかったという少々軽薄な理由と、徒弟奉公の者達が新年の里帰りに間に合うよう旅路の時間を考慮したという現実的な理由により煤払いはこの日に定まっていた。

勿論国芳達の長屋においてもそれは例外ではない。天井から押し入れ、竈の中まできれいにしないと年が明けないとばかりに皆総出で大掃除に当たっていた。国芳もお滝の借家に出向いて障子の張り替えに余念がない。

「ねぇ、孫三郎さん。本当にこの部屋で暮らすのかい?
あんたの仕事場にするにはこの部屋は小さすぎると思うけどねぇ。」

床拭きを終え、姉さんかぶりを解いたお滝が国芳に尋ねた。

「そうだな・・・・・まだ二人のうちはいいんじゃねぇか?ガキが出来たらさすがに狭すぎるたぁ思うが。」

「猫達の事を忘れてないかい?うちのシロとあわせて七匹になるんだよ?」

「そうか・・・・・そうなると夏くらいには新しい借家を探さねぇといけなくなるな。」

ピン、と美しく張り終えた障子を桟に納めながら国芳はお滝の方に振り向いた。

「じゃあ善は急げだ。大家の処に行ってもう少し大きな部屋ぁ借りられないか聞いてみるか。」

「そう来なくっちゃ!」

お滝はにっこり笑うと国芳にそっと寄り添った。



「何?もう少し大きな部屋を借りたいだと?」

二人揃ってやって来た国芳とお滝に『鯨汁』を差し出しながら、大家は怪訝そうに尋ねた。
この『鯨汁』は煤払いの作業後に必ず出されるもので、冬の時節と重労働を加味して滋養強壮と長寿を願って食べるものである。
勿論国芳達の長屋も例外ではなく、大家自らが腕を振るって作る『鯨汁』は長屋の住人の楽しみでもあった。

「ええ、そう急ぎはしねぇんですけど、出来ましたら俺達二人と猫七匹が暮らせるような部屋があったらと思いまして。そのうちややが生まれるかもしれねぇですし・・・・・。」

熱々の鯨汁食べながら国芳が大家に事情を説明する。その説明に目を丸くした大家は国芳の隣にいるお滝に思わず尋ねてしまった。

「ややって・・・・・おい、お滝さん。あんた、とうとう身を固める気になったのかい?」

『落ちずのお滝』がまさか所帯を持つとは思っても見なかった大家は驚きを隠せない。

「ええ・・・・・わっちもいい歳ですし、そろそろ年貢を納めようかと。」

まるで少女のように頬を染めながらはにかむお滝に、大家は満面の笑みを浮かべた。

「そういうことかい!となるとお滝の気持ちが変わらねぇうちに部屋を手配してやらねぇとな。それと祝言は?勿論まだなんだろう?」

「はぁ・・・・・お滝の家族は陸奥ですし、俺は勘当同然で家ぇ飛び出しちまっているんで祝言はどうしようかと・・・・・。」

「だったら長屋の連中だけの祝言で良いじゃねぇか!おい、嬶!損料屋から紋付と花嫁衣装を借りてきてくれ!」

せっかちすぎる大家の言葉に慌てたのは国芳とお滝であった。

「お・・・・・大家さん。何もそんなに慌てなくても・・・・・。」

「別にお滝を孕ませちまったとかって訳じゃないんですから、祝言はもう少し温かくなってからでもいいんじゃ・・・・・。」

大家を必死に止めようとする二人であったが、そんな二人の声に耳を貸さず大家はべらんめぇ調で啖呵を切る。

「何言ってやがる!江戸っ子がそんな悠長な事を言ってられるかい!借家の方は祝言が終わったらそのまま入れるようにしてやるから安心しやがれ!」

そう威勢良く大家が言い放った時、ひょっこりと大家の妻が三人のいる部屋に顔を出した。

「なんだい、お前さん。急に損料屋から紋付と花嫁衣装を借りてこいだなんて。」

「おお、嬶!良いところに来た。こいつらがようやく身を固める気になったって言うんだ。気が変わらねぇうちにとっとと祝言を挙げさせちまった方が良いだろう?」

最初怪訝そうな顔をしていた大家の妻だったが、事情を知ると途端に合点顔になる。


「おやおや、やっと身を固める気になったんだね、お滝さん?国芳さんはまだ若いけど腕は確かだから良いかも知れないねぇ。ちょっと待っていておくれよ。すぐに手筈を整えてあげるから。」

この良人にしてこの妻あり、そう言い残すと大家の妻は早々に損料屋へと飛び出してしまった。その後ろ姿を見つめつつ、お滝は困惑の表情で国芳に囁く。

「・・・・・孫三郎さん、何だか大ごとになっちまったねぇ。」

お滝の言葉に国芳も頷かざるを得ない。

「仕方ねぇさ。ま、なるようにしかならねぇだろうから腹ぁくくるしかねぇだろう。」

肝心の二人を置いてけぼりに、国芳とお滝の祝言の話はどんどん進んでいった。



そしてその夜----------。

「高砂やぁ~~~~~。」

お滝の姉分・雅弥が吉原から駆けつけて二人の為に『高砂』を唄う。その唄にあわせ紋付を着込んだ国芳と白無垢姿のお滝が固めの杯を口にした。二人を祝う為長屋の住人は勿論、国芳の師匠や兄弟子達、そして忘れてはならない飼い猫たちも顔を揃えている。

「来年はさらに賑やかになりそうだな、ミケ。」

緊張の面持ちながらも幸せそうな弟弟子を見つめながら兄弟子の一人・国直が膝に乗せたミケに呟く。国直にそんな予感を抱かせるような祝言は夜を徹して行われ、夜明けと共に国芳への胴上げでお開きとなったのだった。



UP DATE 2011.11.29

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猫絵師・国芳独身編(笑)最終話『煤払い後の祝言猫』ですv
ようやく二人(と七匹)で一緒に住もうとなったのですが、それを頼みに行った先で祝言の手筈まで整えられてしまったという(爆)。大家さん夫婦もきっとやきもきしていたのでしょう。この素早すぎる行動力は江戸っ子ならではですが、なかなかくっつかなかった二人に対するもやもやもあったのかもしれませんv
少々強引すぎる大家さんご夫婦のおかげで祝言をすることになってしまった二人ですが、幸せなことには変わりなく、これから二人と七匹(だったはず。ミケ、トラ、タマ、シロ、ブチ太郎にブチ次郎とお滝の処のウメ・・・もしかしたらもっといるかもしれない・苦笑)は一緒に暮らしますが、猫も人間もどんどん増えていくはず・・・・そんな国芳家族を来年一年間も書いていくつもりですので、宜しかったらお付き合いのほどよろしくお願いしますv

(来年はタイトルを国芳の作品名にしたいな~と。売れない若い絵師ではなく売れっ子・国芳を書く予定です^^)
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