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「葵と杏葉」
葵と杏葉・外伝

化け猫姫の黒髪・夜~葵と杏葉・外伝

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 安政六年も終わりに近い十二月十六日、突如責姫の父である斉正が川越藩邸に直侯を訪ねてきた。大老井伊直弼の変貌振りと自身の近衛中将への昇進への昇進に違和感を覚えた斉正が、責姫に逢うという口実で政治中枢にいる直侯に話を聞きに来たのである。
 そして舅と婿の二人はひとしきりの状況確認と今後の対応を協議した後、『幕府への届け』通りに斉正は責姫と話をし、佐賀藩邸へと帰っていった。


 斉正が帰った後、直侯は責姫の許へやってきた。煌々と輝く十六夜月が部屋を照らし、行灯が無くても互いの顔がはっきりと見える。直侯は黒目がちな責姫の目を真っ直ぐ見つめながら斉正との会話の内容を責姫に尋ねた。

「健子。義父上は・・・・・・お前にいつもと違う、何か政治に関わる話をされたりしたか?」

 いつになく真剣な表情の直侯に責姫は面食らう。

「ごく私的な話くらいですよ・・・・・・つい最近生まれた末の妹の話で持ちきりでしたけど。殿・・・・・・父は殿に何を話されたのですか?」

 そもそも斉正自ら川越藩邸にやって来ること自体普通では無いし、直侯が責姫と斉正の話の内容を聞き出そうとする事も初めてである。尋常ならざる事が起こりつつあるのか、それとも起こっているのか――――――責姫の表情が不安に曇った。そんな責姫の頬を撫でながら、直侯は自分と斉正の会談の内容を責姫に語り始める。

「ああ、井伊大老の変わりようについて俺に幾つか・・・・・・水戸の親父や福井公が謹慎となっているんだ。さすがに迂闊な相手に尋ねる訳にもいかないと『娘に会う為』との口実を作ってこちらに来たと仰っていた。それだけ慎重にならざるを得ないんだろう」

 直侯は責姫の頬から髪に手を滑らせ、背中に流れる責姫の黒髪を指に絡ませた。元結掛け垂髪に結われた責姫の髪はしっとりとした手触りを直侯の手に伝え、直侯の心を穏やかに鎮めてゆく。それに対し、話を聞いた責姫は不安の影をさらに強める。

「確かに父がちゃかぽんのおじさま、もとい大老に直接詳細な話を聞き出せないというのは問題ですよね。あれほど仲の良い二人なのに・・・・・・私も御台様にご機嫌伺いをしながら、大奥の話を集めた方が良いのでしょうか」

 責姫がこう言い出すのも理由がある。斉正と御台所の義父である亡・島津斉彬は母方の従兄弟同士であるし、責姫の養母である盛姫の『徳川の縁』もあるのだ。そんな責姫が大奥にご機嫌伺いをするのは何ら問題は無いと思われるが、今までにない急な動きはむしろ大老に怪しまれてしまうだろう。
 あまりにも心配そうな顔をする責姫に、直侯は穏やかに微笑みながら首を横に振った。

「健子、お前が心配することはない。とりあえず書状でご機嫌伺いくらいでいいだろう。それよりも」

 直侯は不意に責姫を抱き寄せて唇を奪った。手に絡ませた責姫の髪が豊かにうねり、熱を帯びるようだ。今まで生真面目な話をしていた直侯からは想像出来ない行動に、責姫は身体を硬直させる。そんな責姫の戸惑いを無視するかのように、直侯の接吻は熱く、そして長く続いた。その情熱に根負けしたのか、責姫の身体の硬直も徐々に溶けてゆく。見た目の割りに意外とたくましい直侯の腕の中、責姫は己の全てを直侯に預けた。

「・・・・・・先に父親達に孫の顔を見せるのが先だろう。健子の父御はともかく、俺の親父殿はいつ憤死してもおかしくない。一橋の兄上にも『惚れた女を孕ませることが出来なくて何が男ぞ!』とけしかけられたしな・・・・・・良いだろう、健子」

 長い、長い接吻の後、直侯は責姫の頭を抱えるように抱きながら、その耳許に囁く。

「と・・・・・・の?」

 潤んだ眼差しで直侯の顔を見つめる責姫の唇は、先程までの激しい接吻で濡れている。その濡れた唇に誘われるように、直侯は再び己の唇を責姫の唇に重ねた。
 直侯が率いる川越藩は三浦から品川の海防を任されている。その為仕事が忙しく、なかなか責姫に逢うこともままならないのだ。それだけが理由では無いのだろうが、夫婦仲が良いにも拘わらずなかなか子供に恵まれず、五年の月日が過ぎてしまったのである。普通なら側室を、となるところだが、海防による出費があまりにも大きすぎた。側近の誰一人側室の話を出すこともなく、直侯と責姫の夫婦は子供がないまま現在に至る。

「俺は側室を侍らす気もさらさらないし、万が一侍らせたとしてもこの忙しさでは子供作る余裕も無いだろう。そんな暇があるならお前の許に通うだろうしな。だから健子・・・・・・お前に俺のややを産んで貰わねば困るのだ。俺の子を産み育てられるのは化け猫姫以外おらぬのだから」

 冗談半分の直侯の囁きは甘さを含み、責姫の心をくすぐった。責姫は嬉しさと恥ずかしさがない交ぜになった表情で直侯を見上げる。

「またそうやって巫山戯て・・・・・・正室を誘惑する大名なんて聞いたことはございませぬ」

 言葉だけでは直侯を窘めながらも、責姫は直侯の誘惑に墜ちてゆく。逞しい直侯の腕に抱きしめられながら、責姫は満ち足りた気持ちで瞳を閉じた。




UP DATE 2011.12.30


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『化け猫姫の黒髪』三部作の最終話ですv
この時点で結婚五年目、本来ならそろそろ側室を・・・・となる頃なのでしょうが、少なくともWikiで調べた限りでは直侯に側室はいなさそうなんですよ。
斉正といい江戸後期から幕末の大名で、それほどおねぇちゃん好きじゃない人は正室がお褥御免になるまで側室を侍らせなかったんでしょうか?それとも女性とはいえバックにろくでもない輩がついている場合を考え、そう簡単に寄せ付けなかったのか・・・・・不安な時代になると正式なパートナーを大事にする傾向があるらしいと申しますが、幕末もそうだったんでしょうね。

この時点からおよそ二年弱で二人の幸せな時間は終わりを告げます。子供もおらず、二十三歳とまだ若かった責姫は再婚も可能だった筈なのに落飾し、八十歳の長寿を全うするんです。その心境って・・・・・(>_<)
もしかしたら短かっただけに激しい恋だったのかも知れませんね。いつか二人の別れの話も書くと思いますが、暫くは短くとも幸せな恋に浸らせてやってくださいませねv

この話を持って2011年の更新は最後になります。明日予定しておりました『がらくた箱』は1時間遅れの2012年初っぱな更新ということにさせてくださいませね。その更新で2012年の目標等々語らせていただきます(^o^)
では、皆様。良いお年を~♪
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