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「紅柊(R-15~大人向け)」
癸巳・春夏の章

年礼と女礼者・其の貳~天保四年一月の景色

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山田道場で出された夕飯を食べた後、どこにも寄り道せず川越藩下屋敷にある長屋に帰ってきた銀兵衛は、行灯を灯し玄関に放り出してあった礼帳を拾い上げてその中身を確認した。

「今日は・・・・・三人ほどか。意外とやって来るもんだな。」

 銀兵衛の知人と言えば川越藩家中の人間か山田道場の人間だけなので、わざわざ年礼に出向かなくても殆どの人間と職場や道場で互いに挨拶を済ませてしまうことができる。ただ、刀の研ぎ師や小道具屋、その他馴染みの商人達が挨拶に来るので形ばかり礼帳を置いておくのだが、昨日その礼帳に思わぬ名前が書かれていたのだ。銀兵衛は頁を繰り、礼帳に記された昨日の来訪者の名前を見る。そこには『蒲生 弥之輔』----------以前、義兄であった男の名前が、明らかな女文字で書かれていた。しかもその女文字は銀兵衛の知る文字なのだ。銀兵衛は綻びそうになる頬を引き締めつつ懐から袱紗に包んだ手紙を取り出し、礼帳のその文字と比べる。

「これは----------間違いなく喜代のものだよな。」

 そもそも蒲生とは藩邸の新年行事で顔を合わせているし、喜代と離縁してしまった今では互いに年礼に出向くのも気が引ける関係でもある。そんな蒲生が銀兵衛を訪ねてわざわざ下屋敷まで出向く事はないだろう。それに昨日年礼回りから帰ってきた際、同僚にある事を言われたのである。

『おい前畑、お前も隅に置けないな。今日、曰くありげな御高祖頭巾の女礼者がお前の長屋に入っていったぞ。いいよなぁ、色男は離縁した後も女に不自由しなくって。』

 独身が長く続いている同僚は、心の底からうらやましそうに銀兵衛にそう報告した。そもそも女礼者が江戸市中を歩き出すのは松の内を過ぎた頃から、早くても三が日が過ぎてからである。それを考えると二日の女礼者はかなり異常なことであるが、弥之輔が留守の間にこっそり家を抜け出してきたのであればそれもあるだろう。そして銀兵衛にはもう一つ、確固たる理由があった。

「これもやっぱり・・・・・・喜代の手なんだろうな。」

 銀兵衛は着古した自分の寝間着を手に取りながら呟く。その寝間着は数日前擦れて破れてしまったのだが、その部分に継ぎがあてられ補修されていたのだ。その几帳面で丁寧な仕事は、あの日まで----------喜代の不義が発覚したあの日まで至極当然だと思っていたものである。

「そろそろ買い換えようと思っていたのにな・・・・・これでは古着屋におろすこともできやしない。」

 穴の空いた寝間着ならぼろとして古着屋へおろしてしまうことは簡単だが、喜代の手が入ったものはそう簡単にはいかない。日々の暮らしの中、どんどん薄れていく喜代の気配に縋ってしまう自分を女々しいとは思いつつ、銀兵衛は継ぎのあてられた部分をそっと撫でた。



 銀兵衛が川越藩下屋敷に辿り着いたその頃、山田道場には相変わらず五三郎と猶次郎が居座っていた。特に五三郎は夕餉を取った後も為右衛門と共に自宅に帰らず、高級なのし鮑を肴に酒を呑み始めたのである。

「・・・・・五三郎兄様、飲み足らないんでしたら何故一関の御家老のお酒を受けてこないんですか?のし鮑、もう兄様に出す分はありませんからね!あとは残りもののお煮染めで呑んでください!」

 貧乏徳利を抱えて酒を呑んでいる五三郎に対し、幸はこれが最後とのし鮑三切れを突き出した。
 浪士ながら将軍家始め各大名家との付き合いのある山田家では下されものとして保存が利く高級珍味を送られることも珍しくない。ただ、それは殆ど吉昌や幸など山田家の面々の腹に入ることはなく、食べ盛りの若い弟子達が平らげてしまう。特に身体が大きい五三郎の胃袋に納められる高級珍味の量は半端ではなく、幸もそれを守るのに必死だ。そんな幸の苦労を知ってか知らずか、五三郎は『お煮染め』の一言に反応する。

「お、いいねぇ、お煮染め。そろそろのし鮑にも飽きてきたしさ。じゃあ幸、お煮染め持ってきてくれよ。」

 師匠の養女、というよりむしろ山田家の正統を継ぐ跡取り娘に対する態度とはまったく思えぬ人使いの荒さで五三郎は幸に命じるが、幸はまったく気にした風もない。

「はいはい。だったらもうお煮染め、全部片付けちゃってくださいね。いつまでもおせちが余ってしょうがないんですから----------猶次郎さん、もし宜しかったらお汁粉如何です?」

 幸はほうじ茶の入った湯呑みを両手で持ちながら、体調を整えている猶次郎にも声を掛ける。

「へぇ・・・・・ほな一杯だけ。五三郎はんの大食らいを目の当たりにしてたらこっちまで腹いっぱいになってしもうて・・・・・。」

 げんなりした表情で猶次郎は幸に訴えた。確かに悪酔いして気分が悪くなった者にとって、五三郎の食欲は目に毒である。猶次郎の心からの訴えに、幸も思わず笑い出す。

「じゃあお餅は少なめにしておきますね----------あ、お竹さん!」

 幸が台所に行こうとしたその時、下女のお竹がおせちの入った重箱と汁粉が入った椀を持ってきたのである。

「そろそろお入り用なんじゃないかと思いましてね。五三郎さん、これぜ~んぶ食べてしまっても構いませんから。そして広田さんはこちらで・・・・・こしあんのお汁粉は大丈夫ですか?酔いがひどいみたいですから、お餅じゃなくおかきを浮かべてきましたけど、残しちゃっても構いませんからね。」

 まるで母親のようなお竹の言葉に、五三郎は重箱に飛びつき、猶次郎は恐縮した。

「こしあん・・・・・そんな贅沢を。ほんまにええんですか?」

 小豆そのものが高級品である上に、その皮を全部取り払ってしまったこしあんは、公家や上級武士、大商人だけが口にするものである。五三郎や猶次郎のような下級武士が口にして良いようなものではないだけに猶次郎は心配するが、お竹は笑いながら猶次郎に汁粉の入った茶碗を差し出した。

「ええ。お大名もこちらにお忍びで来られてお汁粉を所望されることがあるんで一応両方あるんです。けど、酔い覚ましにはお腹にたまらないこちらの方がよろしいでしょう?」

「おおきに。ほな、頂戴します。」

 お竹の気遣いに猶次郎は手を合わせ、ゆっくりと汁粉をすすった。初めて口にするこしあんの汁粉はあまり甘くはなかったが、酒に疲れた喉や胃の腑を優しく癒してくれるような気がした。

「猶次郎さん、気にすることはありませんよ。中にはまったく問題無いのにこしあんのお汁粉をがばがば飲んじゃう人だっているんですから。ねぇ、兄様。」

 恐縮しながら汁粉を口にする猶次郎を気遣いながら、さり気なく幸は五三郎の大食いに対して嫌みを言う。だが、それを大人しく聞いているだけの五三郎では勿論無い。

「何でもないなんて人聞きの悪い。死にそうなくらい腹ぁ減っているからがばがば飲むんじゃねぇか。お竹さん、俺にも後でこしあんの汁粉を!」

 どうやらこちらも五三郎の好物らしい。舌なめずりをしながらこしあんの汁粉を注文する五三郎に、幸は露骨に渋い表情を見せる。

「・・・・・今日はお煮染めもあるんですから、こしあんのお汁粉は三杯までにしておいて下さいね。どうしても、って言うんならあとは粒あんのお汁粉で我慢して下さい!」

 遙かに年下の幸に怒られ、五三郎は面白くなさそうに頬を膨らませた。

「ちぇ。こしあんの汁粉なんてここでしか飲めないのによぉ。ケチ!」

「・・・・・っていうか、いつまでここに居座る気ですか、兄様。あまり遅くなると木戸が閉まりますよ!」

 そもそも夕餉が終わったにも拘わらず、いつまでも山田道場に居座ろうとする五三郎に幸も苛立ちを露わにする。しかし、五三郎は重い腰をなかなか上げようとはしなかった。

「その時はその時、ここに泊まるから。猶次郎もそうしたらどうだ?二人分の布団くらいあるんだろ?どうせ俺も猶の字も嫡子じゃねぇから煩ぇことは言われねぇだろうし。」

 と、五三郎に水を向けられた猶次郎であったが、縁起でもないと慌てて首を横に振る。

「いや・・・・・こっちは煩う言われます。お汁粉頂いたらええ加減おいとませんと。」

「堅苦しいなぁ、猶次郎は。」

「兄様がいい加減すぎるんです!どうしてそんなに芝に帰るのを渋るんですか。」

 あまりにも聞き分けのない五三郎に、業を煮やした幸は核心に迫る質問をぶつけた。すると五三郎は急に真顔になり、ぽつり、ぽつりとその理由を零し始める。

「・・・・・だってよ、兄者夫婦に悪いじゃねぇか。義姉さんも俺達に気を使ってなかなか子宝に恵まれねぇし。せめて正月くらいは夫婦水入らずでよろしくやってもらわねぇと、銀兵衛さんとこみたいになっちまう。」

 どうやら五三郎としては『自分がいるから兄夫婦が遠慮をしてしまっているのでは?』と気を使っているらしい。特に昨年、銀兵衛の離縁があっただけに余計に心配だと五三郎は呟いた。

「それはないでしょう。すでに結婚して六年になりますけど、あの二人はまるで新婚の夫婦みたいに仲が良いじゃないですか。」

「それだよ・・・・・だから家に帰れねぇんだって。隣の部屋でコトに及んでいる気配がする中、独り寝は堪えるんだぜ、幸には解らねぇだろうけどよ。ま、コトが終わったのを見計らってぎりぎり帰るか、ここに泊まらせて貰うか、----------こいつを呑みながら考えるからさ。な、幸、もうちょっとだけつまみを頼む!」

 結局何だかんだ言って呑むのである。今夜は五三郎はここに泊まっていくのかも知れないなと幸は呆れつつ、何かつまみになるものはないか台所へと引っ込んでいった。



 備中新見藩藩邸の目と鼻の先は海である。はす向かいには徳川の浜御殿がそびえ立ち、暇に任せた御徒達が長屋の窓から釣り竿を垂れる、そんな長閑な環境に藩邸はあった。ただ、昼間は穏やかでも夜になると潮騒の音がかなり煩く響くのもこの藩邸ならではの欠点である。
 そんな慣れない者だと一晩中眠ることが出来なくなる、耳を聾さんばかりの潮騒の音に混じりつつ、長屋の一室から微かに若い女の嬌声が聞こえていた。

「だ・・・・んな、さまぁ・・・・・。」

 鼻に掛った、甘い声を上げながら為右衛門にしがみつくのは、妻の寿江であった。結婚して早六年目になるが、為右衛門よりひと回りも若い二十二歳の寿江は新婚のままの初々しさを湛えたままである。だが、その初々しさは子供に恵まれない所為なのかも知れない。
 山田家の高弟として時には幕府や他藩の所用に駆り出されることも少なくない為右衛門である。江戸で同居しながら子宝に恵まれないというのはそういった多忙の所為もあるかもしれない。ならばせめて挨拶回りだけで用が済む正月くらいは・・・・・と帰宅するなり為右衛門は寿江を布団の中へ連れ込んだのである。

「ほら、寿江。あまりはしたない声を出すと父上に聞きとがめられるぞ。」

 寿江の耳朶を甘噛みしながら、為右衛門は寿江をからかった。下級武士とはいえ、五左衛門の代から山田浅右衛門の高弟として名を馳せている後藤家は、それ相応に広い家を藩から与えられている。それ故に階下で眠っている、少々耳が遠くなった五左衛門に寿江の押し殺した嬌声が聞こえる心配はほぼ無いのだが、寿江が恥ずかしがる姿が愛らしく、ついついからかいたくなるのだ。

「五三郎の奴だってお前の声が耳の毒なんだろううな。気兼ねして帰ってこないじゃないか。自分がいかに罪作りな声で啼いているか解っているのか、寿江?」

 意地の悪い物言いをしながら為右衛門は寿江の半開きになた唇に己の唇を重ね、舌を差し入れた。

「んん・・・・っ。」

 割り入ってきた為右衛門の舌に圧倒されながらも、寿江は己の舌を絡め、吸う。そのひたむきさはまるで乳を飲む赤子のようだ。為右衛門も寿江のひたむきさに応えるように、寿江の口腔を犯してゆく。二人の接吻から漏れる音はまるで情事そのもののような卑猥さで部屋に響き、潮騒の音に絡みついてゆく。

「・・・・・本当に寿江は幾ら抱いても飽きないな。」

 長い接吻から寿江を解放した為右衛門は、寿江の胸に手を差し入れながら呟く。

「そんな言い方・・・・・まるで私が娼妓みたいじゃないですか。」

 ぷっ、と子供のようにふくれる寿江に為右衛門は思わず笑い出した。

「良いじゃないか。女房と米の飯には飽きぬ、と先人も言っていることだし、そもそも・・・・・・。」

「そもそも?」

 胸に差し入れられた為右衛門の手に気を取られそうになりながらも、寿江は為右衛門の言葉の続きを促す。

「お前は娼妓よりも淫蕩で俺を夢中にさせる----------第一、娼妓はここまで羽目を外しはしないぞ。」

 為右衛門はそう言いながら寿江の胸許を押し開き、胸の頂にある蕾を口に含んだ。

「あんっ・・・・・そこはっ・・・・・!」

 不意に胸の頂きに為右衛門の舌の刺激を与えられた寿江は、思わず声を上げ頤を仰け反らせる。

「ほら。娼妓はこの程度の手管に動じたりしないぞ。ややが生まれて乳を飲むようになったらどうするんだ?こんなに感じやすくて----------。」

 為右衛門は蕾を口に含んだまま喋り続け、刺激につん、と勃った蕾を強く吸い上げた。



UP DATE 2012.1.10

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疑惑の女礼者はほぼ銀兵衛の元妻・喜代みたいです。『新しい奥様を見つけて・・・・』みたいな手紙を幸を経由して出しておりましたが、彼女にもまだまだ未練はあるようで(^_^;)果たして二つの未練がひとつになるのはいつのことでしょうかねぇ。そう遠い未来では無いと思います。

一方兄夫婦のラブラブぶりに当てられてなかなかおうちへ帰ることが出来ないのは五三郎です(爆)。たぶん去年までは年礼やら稽古の疲れで兄夫婦のコトなんて気にしてはいなかったんでしょうけど、ハタチを過ぎてそろそろ『遊びじゃない相手との関係』に気を使うことができるようになったんじゃないかと思われます。しかし、気の毒・・・・・。五三郎もですが、その相手をさせられる幸も堪ったもんじゃありません(爆)。この五三郎の相手は松の内の間続くんでしょうねぇ、たぶん。

そして五三郎がおうちへ帰れなくなった張本人、為右衛門とその妻・寿江(爆)。潮騒が響く中子作りに励んでいるようです。っていうか姫始めですかねぇ、これ?
次回はがっつり★付きにさせていただきますので苦手な方は飛ばしちゃってくださいませね。更新予定は1/17ですV
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