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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第一章

夏虫~新選組異聞~ 第一章・第二話 上洛・其の貳

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運命の日------------その日の夜に起こる騒動のことなど思いもせず、近藤率いる六番組の面々は二番組と共に御所拝観に出向いた。前日に小うるさい注意事項が通達されていたが、半ば物見遊山がてらの拝観である。

「さすがにでけぇな。」

 長々と続く御所の白壁に原田は感嘆の声を上げる。同じ白壁でも武張ったところを感じさせる武家屋敷のものとは違い、たおやかな美しさを持つ御所の白壁はまるでそれ自体が光を放っているかのように柔らかい春の日差しを受けていた。

「しかし・・・・・外からしか見ることは出来ないんですか。つれないものですね。」

 堀で守られている城と違い、御所は壁だけで守られている。そう言う意味では無防備といえるのだが、堀の外から望める江戸城や、特別な日には町人に開放もしてくれる大名屋敷を当たり前だと思って育った沖田にはその壁が自分達を拒絶しているように思えてならない。

「それが天子様というものだよ。徳川の御世の前からずうっ、と日本を治めていらっしゃるのだから。」

 少々不満げな沖田に対し、山南は穏やかに諭した。水戸学の影響を受けている北辰一刀流の免許皆伝者だけあって、山南の尊皇思想は生粋の試衛館の者達よりも強い。その事で山南と土方はよく言い争いに近い議論を戦わせるのだが周囲の心配を他所に本人達はそれを楽しんでいる節がある。

「そんなもんなのかねぇ。俺たちが”おのぼり”だからそう見えるだけかも知れねぇぜ。」

 土方はつまらなさそうに白壁を見つめつつ、欠伸をかみ殺した。

「なかなか余所者に本心を明かさない都のやり方そのままじゃねぇか。」

 普段の土方ならもう少し山南に議論をふっかける筈なのに、今日はやけに眠そうである。どうやら土方は壬生の村民以外に『京都の知り合い』をすでに何人か作っており、その逢瀬のため少々寝不足気味らしい。そんな『京都の知り合い』とのやり取りから思うところがあるのだろう、土方の言葉には妙な実感がこもっていた。

「まぁ、数ヶ月いるだけの相手に対してだったらそんなものなんじゃないですか。」

 それなりに痛い思いをしているらしい土方に対し、沖田は投げやりに言葉を返した。そのどことなく小馬鹿にしたような弟分の態度が気に入らなかったらしい。

「・・・・・ろくに遊びもしねぇ癖に判った風な口を聞きやがって。」

 土方は不機嫌を露わにすると思いっきり沖田の向う脛を蹴り飛ばす。

「痛っ・・・・・何をするんですか、土方さん!」

 まさか向う脛を蹴り飛ばされるとは思ってもみなかった沖田はすっかり油断しており、土方の蹴りをまともに受けてしまった。痛みに顔を歪めながら沖田は向う脛を押さえる。

「昨日回ってきた廻状にゃ『向う脛を蹴っ飛ばしてはいけねぇ』なんて書いていなかったぜ。」

 土方は御所拝観の日程と一緒に回ってきた『注意事項』を引き合いに出した。確かに『頭の指示に従え』とか『酒屋や他人の家に勝手に上がり込むな』という注意書きはあったが『後輩の向う脛を蹴り飛ばすな』という注意書きは無かった。土方はさらに沖田の向う脛を蹴り飛ばそうと脚を振り上げる。

「や、止めてくださいよぉ。まったくやることが子供なんですから。」

 これ以上蹴り飛ばされては堪らないと沖田はするり、と土方の前から逃げ出したのだった。



 御所見学を終えたその日の夜、ふたたび近藤達は新徳寺に来るようにと招集をかけられた。

「近藤さん、今度は俺も連れて行け。」

 この前の近藤の違和感を思い出したのか、土方がやけに強く申し出る。

「しかしなぁ・・・・・。」

 招集はあくまでも小頭のみであって、付き添いで平の隊士を同席させても良いものかどうなのか近藤は判断に迷った。だが、土方はそう簡単に引き下がりそうもない。

「近藤先生、あきらめて土方さんを連れて行った方が良いんじゃないですか?」

 近藤の本当に困り果てた顔を見ながら、さも愉快そうに沖田がクスクスと笑う。

「一度言い出したら土方さん絶対に後に引かないですから。それに土方さんなら近藤先生を絶対に守ってくれますよ。」

 確かに土方はお節介なほど近藤に対して世話を焼くし、何があっても絶対に裏切らない強い絆を持っていた。二人のその強い結びつきに時折やきもちに似た感情を抱く沖田であったが、今回に限ってはその絆は悪い方には働かないと土方の同行を勧める。それは試衛館の他の面々も同様らしく皆沖田の提案に頷いた。

「そう言うことだ。諦めろ、近藤さん。」

 皆の賛成を取り付けた土方はほら見ろとばかりの表情を浮かべる。

「そうだな・・・・・じゃあ歳、頼まれてくれ。」

 結局皆に押し切られる形で近藤は土方の同行を許可した。しかし近藤は後にこの判断を感謝することになる。もし土方の同行を許していなかったら近藤は怒りのあまりとんでもない行動に出ていただろう。近藤や土方、否、浪士組全体の運命を大きく揺るがすほどの事態が起こるとは露ほども思わず、二人は新徳寺に出向いていったのだった。




「我々は勤王の集団である。天子様の命に逆らう者は例え幕府の役人であっても容赦はしない!」

 会合の冒頭、清河が絶叫した言葉に近藤と土方は愕然とし、次の瞬間怒りを覚えた。清河が勤王勢力と通じ、浪士組を天皇配下の兵力にしようとする画策が露見した瞬間である。これには同行していた浪士取締役達も驚愕し、大至急協議を開くことになるのだがこの瞬間は唖然とするばかりであった。浪士取締役達でさえこんな調子である。どうしていいのか判断に迷う小頭が多い多いのは仕方が無いだろう。
 そんな中において近藤と芹沢は清河に詰め寄り発言の撤回を求めたが、田舎道場の道場主や天狗党のはぐれ者の意見に耳を傾ける清河ではない。最終的に双方刀の柄に手をかけるところまで話はこじれてしまい、近藤と芹沢は一足早く新徳寺を後にすることになってしまった。



 そもそも彼らが参加している浪士隊とは清河八郎という一人の攘夷志士の案から生まれたものであった。浪士組の発起人である清川は北辰一刀流の免許皆伝、江戸幕府の学問所昌平黌に学んだ文武両道の秀才であるが、万延元年に起こった桜田門外の変に強い衝撃を受け、倒幕・尊王攘夷に転じた男である。
 清河は虎尾会という攘夷集団を結成し、尊王攘夷の精神を鼓舞しつつ倒幕の計画をたてたがこの密計が幕府の知るところとなる。しかも文久元年には清河に罵詈雑言を浴びせてきた者を斬り捨てたため、彼は幕府に追われる立場となっていたのだ。

 それにも拘わらずあらゆる『つて』を駆使し、幕府政事総裁である松平春嶽に『急務三策』---------攘夷の断行、大赦の発令、そして天下の英材の教育を提唱したのである。
 松平春嶽を通じてそれらを献策された江戸幕府はまさか幕府のお尋ね者の意見とはつゆほども思わずこれを採用してしまった。尊攘志士に手を焼いていたということも否めないが、清河は上手く幕府を出し抜いた事になる。

 結局出し抜かれた事に幕府が気がつくのは松平春嶽によって清河の赦免が申し出された時であったのだが既に後の祭であった。結局清河八郎の建策を受け入ざるを得ず、将軍・徳川家茂の上洛に際して将軍警護の名目で浪士を募集し浪士組が結成される運びとなったのである。

 そして一月二十七日、清河は集まった二百三十余名の浪士達による浪士組を結成、まんまと兵力を手中にした清河は将軍上洛に先駆けて中山道を西上し今日に至るのである。



「何だって!何世迷い事を言ってやがる!」

 会合から帰ってきた近藤と土方の話を聞いてその場にいた全員がいきり立った。

「公方様ではなく天子様をって・・・・・俺たちは公方様の兵なんだぞ!」

 苛立ちを露わに永倉が言葉を吐き捨てる。

「それより許せないのが清河の奴だ!幕府に刃向かうなんてふざけやがって!」

 原田も同様にいきり立ち、拳を床に叩き付けた。北辰一刀流に『尊皇』という思想があるとすれば試衛館にも『佐幕』という思想がある。特に多摩地方はいざというとき将軍が駿府へ脱出するための甲州街道沿いに位置するため『自分達が最後まで将軍を守る』という意識が強い。多摩を中心に活動する試衛館もその影響を受けており、『尊皇』はともかく清河の『倒幕』思想とは相容れないのである。

「とにかく清河殿とは一緒に行動することはできぬ。それだけは確実だ。」

 感情表現が豊かな近藤だが、ここまで怒りを露わにすることは珍しい。その怒りに近藤の本気を感じ、皆異存なく近藤に従う。だが、それだけで済まない問題があるのも確かである。

「しかし、我々だけでどうしたら・・・・・。試衛館の関係者だけでも十五人くらいしか人員はいないし公方様のお役に立てるのだろうか・・・・・。」

 山南が心配を口にしたその時である。近藤を訪ねに来た人物がいるというのである。もしかしたら先程近藤と共に清河に楯突いた芹沢の配下のものかと思い招き入れたが、それは近藤達が全く思いもしなかった人物であった。

「近藤氏、よろしいか。」

 それは浪士組取締役・鵜殿鳩翁の命を受けた殿内義雄と家里次郎であった。鵜殿の命令を受けて浪士組からの離脱を考えている人員を調べにきたのである。

「近藤氏。その方、清河と袂を分かつつもりか?」

 鵜殿の名代という権威を借りているためか、その態度はやけに尊大であった。

「いかにも。」

 今にも殿内に殴りかかろうと身構える土方を制し、近藤が重々しく答える。

「だったら話は早い。今、鵜殿様が公方様のために働く人物を集めている。そなた、それに参加せぬか。」

 居丈高なその態度にむかつきはしたが、えり好みをしている暇は無い。今は浪士組、否、清河と袂を分かつ方法を考えるのが先決であった。

「お話、確かに承りました。では試衛館出身者ともども参加させていただきましょう。」

 殿内にしても胡散臭さを感じないわけではないが、少なくとも清河と行動を共にするよりはましだと近藤はとりあえずその話を了承した。



 混乱しているのは近藤達だけではなかった。浪士組全体が混乱に陥っていた中、井上源三郎と沖田林太郎ら試衛館に所縁のある人物達が所属している組を離れ、近藤の許にやってきたのである。

「近藤さん、一体どうしたら・・・・・。」

 沖田の義兄である林太郎が青ざめた顔で近藤に尋ねた。井上や林太郎が属していた新見錦率いる三番組は二十人近くいる大所帯の為、意見が分かれて混乱状態だという。

「わし等は道場の仲間が別の組にいると言ってその場から逃れてきたんじゃがな。そもそも会合で何があったのかさえろくに教えて貰えなんだ。」

 井上も困り果てたように三番組の状況を説明した。だが、これは三番組だけでなくどこの組でも同様らしい。意見のまとまりを見せているのは偶然にも試衛館所属の者と水戸藩出身の浪士で構成されていた六番組のみであった。

「そんな事になっていたとは・・・・・だが、これは絶好の機会かも知れねぇぜ。」

 何かを考え込んでいた土方がぽつりと呟く。

「歳・・・・・お前、何を考えているんだ?」

 近藤が困ったような表情を浮かべる。何かと活動的なこの男がじっと考え込んでいる時、大抵人を驚かすような突拍子もないことを考えているのである。その事で近藤は何度も驚かされている。今回もその口なのだろう。一体何を考えているんだと土方に尋ねようとしたその時である。

「頼もう!こちらに近藤勇先生はおられるか。」

 少しこもりぎみの、独特の低い声で近藤を呼ぶ声がした。

「あれ?もしかしてあの声は・・・・・斉藤さんじゃないですか?」

 懐かしい声を聞き沖田が嬉しそうに笑う。年齢も同じ、剣術の腕も同程度の試衛館の食客を沖田が忘れるはずもない。

「斉藤か?全くなんて時に来やがるんだ。」

 永倉は苦笑いを浮かべながら玄関まで出迎えに行く。

「近藤先生、ご無沙汰しております。この二人はそこいら辺をうろうろしておりましたので一緒に連れてきました。」

「斉藤さん、いっぱしの武士をそんな捨て犬みたいに・・・・・。」

 沖田の例えもひどいものだが、確かに斉藤の連れてきた二人はまるで捨て犬のように落ち着きが無くおどおどしていた。最も睨みを利かせた試衛館の猛者達に囲まれればどんなに剛胆な者でも震え上がるだろう。斉藤に促され一人は佐伯又三郎と名乗る。そしてもう一人は平伏したきりなかなか頭を上げようとしない。

「君の名は?」

 気後れしているのかと思い、近藤はなかなか名乗らない青年を促した。それに応えるように青年はようやく頭を上げ自己紹介を始める。

「私は、阿比留栄三郎と申します。先程こちらを訪れていた殿内の既知なのですが・・・・・。」

 言いにくそうに阿比留は続ける。

「あなた方が清河殿に付くにしても浪士組から分離するにしても私はとやかく申しません。ただ、あの男にだけは-------------殿内の配下に付くのだけは絶対にお止め下さい。殿内は鵜殿様の命令を利用し、腕の立つものを集めたのち、対不逞浪士の捨て駒にしようとしております。」

 今まで貝のように黙りこくっていた男とは思えないほど一気に阿比留はまくし立てる。

「捨て・・・・・駒?」

 思わず土方がその言葉を口に出してしまうほど、出会って早々の阿比留の物騒な発言に一同呆気にとられてしまった。



UP DATE 2010.02.12


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上洛・其の貳です。ようやく清河が本性を顕わしました(笑)。この正体暴露の時期に関しても諸説あるらしいのですが、私は近藤&芹沢が明らかに反旗を翻した29日説を採らせていただきました。でなければのんびり御所見学なんぞできませんしねv
そしてついでに現われました難敵・殿内(これは管理人にとって・爆)。のちに暗殺されるんですがその理由がはっきりしないのですよ~。なので『人間的に問題が・・・・・。』説にしてしまおうかと(おいっ。)てな訳で後輩からも『奴には注意しろ』と言われてしまうはめに陥ってしまっております。ホント、初期の新選組は人間関係がややこしくて困ります(^^;

次回は阿比留の忠告の続き&試衛館組の判断です。



《参考文献》
◆Wikipedia 新選組
◆Wikipedia 清河八郎
◆新選組日誌 上  新人物往来社
◆新選組 「最後の武士」の実像  大石学著  中公新書
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