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「短編小説」
猫絵師・国芳

猫絵師・国芳 其の弐拾・勇国芳桐対模様

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盆の入りの前日には江戸の市中東西南北すべての場所に『草市』が立つ。草市は盆市とも言い、盂蘭盆に必要な一切の品物を売る市だ。

「茄子はいらんかね~!赤茄子に白茄子、瓜茄子作りの牛馬もあるよ!」

「ほぉずきぃ~鬼灯!お買い得だよ!!」

「魂棚、忘れちゃいねぇか~い!安くしておくよ!!」

日本橋人形町の草市も例外ではなく、露店を広げた売り子たちの怒鳴り声が昼から夜にかけてひっきりなしに響きわたっている。そんな露店を目当てにやってきた人混みをかき分け、国芳一門の芳雪と芳貞は頼まれた買い物を手に新和泉町にある国芳の家に向かっていた。

「噂には聞いていましたけど・・・・・本当にやるんですね、猫のお盆。」

去年の冬に入門した芳貞が兄弟子の芳雪に尋ねる。芳貞が手にした竹笊の中には紅白茄子や蓮の葉と一緒に猫耳が付いた瓜茄子の牛馬がちんまりと居座っていた。これは馴染みの露天商が国芳の為に特別に作ってくれるものである。

「何だ、おめぇ。『猫の盆』は冗談だと思っていたのかい?」

門弟一の美男子は、自分を見てきゃあきゃあ騒ぐ娘たちに愛想を振りまきながら弟弟子の疑問に答えた。

「そもそも猫の仏壇があるんだぜ?盆だってやるだろうよ。おめぇ、他に猫の仏壇がある、ってぇ話、聞いたことあるか?」

そんな芳雪の問いかけに、芳貞は言葉に詰まってしまう。

「・・・・・いいえ。確かに猫の仏壇なんてうちのお師匠様くらいです。」

「だろ?郷に入らば郷に従え、ホトケが『猫』って事以外は普通の盆行事と変わらねぇんだからよ。慣れちまえばどうって事ないさ。」

知ったふうな芳雪の言葉にどことなく腑に落ちない表情を浮かべながら、芳貞は竹笊を抱えて芳雪の後に付き従っていった。



「お師匠様!頼まれたモン買ってまいりやした!」

人混みをかき分け、ようやく新和泉町にある国芳の家に到着した二人は勢い良く引き戸を開いた。その瞬間ふわり、と品の良い線香の香りが漂ってくる。盆ということでかなり奮発しているのだろうか。まるで高級な茶屋で使うようなその香りに芳貞は鼻をひくつかせる。

「線香まで奮発なさっているとは・・・・・まさに『お猫様』ですね、芳雪さん。」

「・・・・・少なくともホトケ猫の方が俺達よか扱いは上だな。お師匠様、失礼しま・・・・・うわっ!」

猫の仏間に入った瞬間、二人の弟子は驚愕の声を上げた。そこには真新しい盆提灯が鎮座していたのだが、それがが少々、というかかなり普通のものと違っていたのである。

「すっげぇ・・・・・この盆提灯の絵はお師匠様の手ですよね?骨組みももしかしてお師匠様が作られたんですか?」

芳貞は思わず盆提灯ににじり寄りながらしげしげとそれを見つめた。盆提灯自体は筒状の簡単な形の物だったが、その周囲には国芳自ら筆を執ったと思われる絵が描かれていた。それは六月に行われた山王祭の際、国芳親子や門弟達が総出で祭りに繰り出した光景であり、皆、派手な着物を着たり歌舞伎役者のように隈取を施したりしている。芳雪に至っては片肌を脱いで菊の刺青を見せているではないか。芳貞は描かれている人物一人ひとりを舐めるように確認してゆく。

「おいおい、芳貞。そんなに見たけりゃ後で元絵を見せてやるから。それとその盆提灯は俺が・・・・・。」

「絵だけ描いたんだよ、うちの人。筆は達者だけど細工物は意外と苦手なんだよ。」

師匠と弟子の会話に口を出したのはお滝であった。

「毎年提灯を作ってくれる作次郎さんに頼み込んで作ってもらったのさ。この絵を持ち込んで『こいつを盆提灯に仕立ててくれ』って。」

半ば呆れながらお滝が二人に見せたのは盆提灯に貼り付けられた元の絵--------二ヶ月前の山王祭の絵であった。

「別にいいじゃねぇか、やってくれるって言うんだからよ。作次郎のやつだって面白がってたぜ。」

まるで子供のように口を尖らせる国芳に対し、お滝は眉間に皺を寄せながら文句を言う。

「そりゃ仕立ての盆提灯は余計にふっかけることができるからさ。お陰で普通の盆提灯の二倍の値段をふっかけられてるじゃないか!」

国芳の頭ごなしにお滝は怒鳴りつけるが、ここで大人しく引き下がる国芳では勿論無い。

「そんなもん、構うもんか!あの世から帰ってくるミケやタマにおとりやおよしの晴れ姿を見せてやらなきゃいけねぇんだし。それによ、こうやって提灯に貼り付けた方が実際に歩いているみてぇじゃねぇか。」

そう言われて弟子たちは納得した。提灯に張られた国芳一門の晴れ姿は、錦絵のままで見るより実際に歩いているように見える。

「確かに言われるとおりだ。こりゃおとりちゃんやおよしちゃんも嬉しがるんじゃないですかい?」

芳雪も提灯を覗き込みながら国芳に声をかけた。だが、それがいけなかった。

「そうなんだよ、あいつらもこれを気に入ってくれてさぁ!なかなか離れてくれなくて困っちまったよ。」

困ったと言いながらもその表情は蕩けそうなほどにやけてしまったのである。猫も愛娘も国芳の大好物--------芳雪も芳貞も改めてそれを感じてしまった。


軽やかな線香の香りが残暑の夕暮れに漂ってゆく。蝋燭を灯された山王祭の盆提灯は華やかな思い出と共にぼんやりと薄暮を照らし続けた。



UP DATE 2012.7.31

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猫絵師・国芳、いつもはできる限り季節の絵&にゃんこが登場している絵を取り上げるように努力しているのですが、今回はその制約を自ら破り、国芳&娘’s&門弟’sの絵を、しかも6月の山王祭の絵を取り上げてしまいました。
神田祭と並んで江戸の天下祭と云われる山王祭、こちらは将軍家の産土神である日枝神社のお祭りですので神輿が江戸城の中に入ってもOKでしたし、将軍の名代が派遣されたり、祭祀に必要な調度品の費用や人員が幕府から出されたりとかなり優遇されていたそうですv(神田明神は江戸全体の守り神様。なので今現在は神田明神のほうが人気があるような気がします^^;)
そんなお祭りに参加できる、ってことはやはり名誉だったんでしょうね~。錦絵&名前表記でお弟子の紹介(さらに娘2人もv)を堂々としちゃうなんて相当嬉しかったに違いありません。

なお、今回『盆提灯』にしてしまったのはあくまでも私のオリジナル、筒状に貼り付けるとそれこそ行列が歩いているようなんですよね~。もし機会がございましたら『勇国芳桐対模様』見てみてくださいませv

次回猫絵師・国芳は8/28 、『荷宝蔵壁のむだ書・黄腰壁』をお題にお送りします^^
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