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「紅柊(R-15~大人向け)」
癸巳・秋冬の章

八朔の嵐・其の壹~天保四年八月の秘め事

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 本来秋は実りの季節であるが、そう口に出すには今年の収穫はあまりにも惨憺たる状況であった。特に陸奥を中心に被害を及ぼしている飢饉は五十年前に起こった天明の大飢饉の再来だと巷では騒がれている。
 それゆえせめて『田の実の節句』--------すなわち八朔の行事くらいは盛大に行なって飢饉を吹き飛ばそうと先月から江戸城は息巻いていたが、当日になって天候が悪化し、文字通り『雲行き』が怪しくなってきた。

「旦那様、本当に大丈夫なのですか?今年は江戸家老様が名代を務める年ですし、無理をなさることは無いと思うのですが・・・・・。」

 寿江は空を見上げながら不安げに為右衛門に訴える。空にはどす黒い雲がかなりの速度で西に--------いつも雲が流れる方向とは逆向きに流れており、寿江の不安を煽るのだ。そんな怯えを見せる寿江に微笑みながら、為右衛門は熨斗目の襟を正した。

「仕方がない、今日は八朔だ。幕府の命とあっては我が家中のような小藩が勝手に登城を辞退するわけにはいかないのだよ。」

 そうこうしているうちにぽつり、ぽつりと大粒の雨が降り始めた。雲の流れや風の強さからすると、もしかしたら大風がやってくるのかもしれないと為右衛門は心の中で舌打ちをする。

「父上も俺と一緒に登城のお供だし、五三郎は平河町に行くだろうらどうしてもここが手薄になる。もし、ここが危なくなったら皆を連れて下屋敷か平河町へ避難してくれ。」

 塀の向こう側が海岸という立地上、何が起こるか解らない。妻の身を案じる為右衛門の言葉に、寿江は怯えを隠し、可能な限りの笑顔を良人に返したのだった。



 寿江の言い知れぬ不安は為右衛門達が藩邸を出立して半刻ほどで現実のものになった。ぽつぽつとだった雨は激しくなり始め、風も急に強くなってきた。その風の所為もあるのだろう、轟々と響く海鳴りの音は耳をつんざくほど大きくなり恐怖さえ覚える。避難をしようにもここまで雨風が強くなってしまうと却って危ないだろう。

「旦那様・・・まだ帰ってこないのかしら。」

 本来なら昼過ぎには八朔の行事は終わり、疾うの昔に帰宅していてもいい頃である。それなのになかなか帰ってこない。何かあったのか--------急に心配がこみ上げてきたその時である。

どんどん!

 明らかに風とは違う音がし、寿江は突っ支い棒で押さえつけていた玄関を開けた。

「寿江ちゃん!やっぱりまだいたのね!」

 それは為右衛門ではなく、幼馴染の瑞枝であった。

「瑞枝ちゃん、一体どうどうしたの?」

 良人でなかったことにちょっとがっかりした表情を浮かべながら、寿江は瑞枝を玄関の中へ招き入れる。

「寿江ちゃん、登城した男衆が暫く帰ってこれない、って話聞いている?」

 瑞枝の一言に寿江の表情が強張った。

「何・・・・・それ?そんな話、聞いてない・・・・・。」

「寿江ちゃん、落ち着いて。」

 寿江が一回りも年上の良人を頼りにし、甘えていることは瑞枝が一番良く知っている。青ざめる寿江を落ち着かせようと、肩に手をかけながら瑞枝は穏やかに事情を説明し始めた。

「この大風のせいで、あちらこちらに被害が及んでいるんですって。だから大名衆総出で救助に当たっているって・・・・・。」

「そんな・・・・・。」

 ただでさえひどい状況になっている中、救援に駆り出されてしまうとは--------なまじ多くの大名たちが顔を揃える八朔行事の場だけあって、『たかが雨風に怯えて逃げる輩は武士ではない!』と互いに見栄の張り合いになってしまったのだろう。

「とにかく無事に帰ってきてくれるのを祈るしか無ないわよね。気を確かに持ってね。じゃあ私は他の家にも知らせに行くから。」

 そう言い残すと瑞枝は玄関を飛び出していく。一人残されてしまった寿江は心細さに唇を噛み締めながらぎゅっ、と胸の前で拳を握りしめた。



 夕暮れになっても為右衛門達登城した男集は藩邸に帰ってこず、風雨はさらに激しさを増し始めた。寿江は為右衛門の帰宅を諦め、簡単な夕餉を取る。後藤家には住み込みの下女はおらず、中間の弥太郎も為右衛門たちに付き従って登城しているので、現在この家に居るのは寿江ただ一人っきりだ。そんな心細さを振り払うように気合を入れなおし、布団を敷こうと立ち上がった。その時である。

「寿江!いるか?」

 頼もしく愛おしい良人の声が玄関から聞こえてきたのである。すぐさま寿江は玄関へ飛び出し、突っ支い棒を外した。

「旦那様、お帰りなさいませ!お義父さ・・・・・まは?」

 てっきり義父・五左衛門も共に帰宅したと思ったのに、そこにいたのは為右衛門ただ一人しかいなかったのである。怪訝そうな表情を浮かべる寿江に対し、為右衛門は肩を竦めた。

「年寄りの冷水、って奴さ。お堀の倒木の下に下敷きになった町人を助けようとして腰を痛めたんだ。こんな時に武士も町人も関係ないって・・・・・むしろ関係があったのは年齢と体力だったんだが。他にも怪我人が出たんで平河町の師匠に頼んで道場で一泊させてもらう事になったんだ。非常事態だし、さすがに江戸家老も許してくれたよ。」

 苦笑いを浮かべながら事情を説明し、為右衛門は草履と足袋を脱ぐと家の中に入り込んだ。一張羅の麻裃は風雨で型崩れしてしまい、裾は泥にまみれている。

「あっちには五三郎もいるし、中間の弥太郎も看病をさせる為にあっちに置いてきた。明日になれば父上の容態もだいぶ良くなると思うが何せ歳が歳だから。」

 ぐっしょりと濡れてしまった裃や熨斗目を脱ぎ、それを寿江に渡しながら為右衛門は語り続ける。そして寿江はそれらを衣紋掛けに掛けながら為右衛門に尋ねた。

「旦那様、お食事は如何なさいます?」

「ああ、平河町でしてきたから茶だけ・・・・・。」

どん!

 何かが激しく壁にぶつかる音がして、寿江は為右衛門にしがみつく。

「かなり大きな物みたいだな。」

 震えながらしがみつく寿江を抱きしめ、為右衛門は呟いた。特に何かが壊れた様子も無さそうだし、大したことはないだろうと為右衛門は判断する。

「寿江、そんなに怯えなくても大丈夫だから。」

 そう宥めるものの寿江の震えはなかなか収まらない。

「旦那さまぁ・・・・・でも、恐ろしゅうございます。」

 甘えを含んだ声で寿江は為右衛門に恐怖を訴える。為右衛門をじっと見つめる眼差しは恐怖の涙で潤んでおり、それはともすると為右衛門を誘っているようにも見えた。

「そうか・・・・・恐ろしいか。」

 寿江の怯える様子に愛おしさと欲情を覚えた為右衛門は、寿江の小さな顎に手をかける。そしてくいっ、と顎を持ち上げ、何かを言いかけた寿江の唇を塞いだ。それは軽く重ねるだけの接吻だったが、それだけでも安心を得られたのか寿江の震えは徐々に収まっていく。

「・・・・・茶はあとでいいか。」

 長い接吻のあと、寿江の唇をようやく開放した為右衛門は寿江の耳許に唇を近づけ囁く。

「今日は父上も五三郎も平河町だ・・・・・多少羽目を外してもこの大風だったら聞こえないだろう。」

 欲情を含んだその囁きを聞いた瞬間、寿江の身体はびくん、と跳ね上がった。

「え・・・・・あ、あの、お茶・・・・・淹れてきます。」

 多少羽目を外しても--------為右衛門のいつにないその言葉に、寿江は耳まで真っ赤にして恥じらい、為右衛門から離れようとする。だが為右衛門は寿江を離そうとせず、さらに強く抱きしめた。

「いい加減『ややはまだか』と榎本の義父殿をやきもきさせるのも悪いだろう。こんな機会は滅多に無いんだし・・・・・良いだろう?」

 為右衛門は再び寿江の唇を奪う。為右衛門の舌は容赦なく寿江の口腔を蹂躙し、卑猥な音を立て始めるが、それは嵐の音にかき消されて自らの耳にも届かない。その事を確認し安心したのか、寿江の反応も為右衛門に煽られるように徐々に激しくなっていった。
 扇情的な濡音を立てながら柔らかく絡み合う二人の舌は熱を帯び、頭の芯から蕩けそうな感覚に陥ってゆく。寿江は崩れ落ちそうになるのを必死に耐えながら為右衛門の逞しい腕にしがみつき、為右衛門の舌先の愛撫に応えた。

「・・・・・寿江、床は?」

 どれくらいの時間が経ったのだろうか。舌が痺れ、感覚が無くなるほどの接吻から、ようやく為右衛門は寿江を開放した。寿江の唇は淫猥な色に濡れ、為右衛門を再び誘うように半開きに開いている。その唇が微かに動き、為右衛門の問いに答える。

「これから敷こうかと思った矢先に旦那様が帰ってこられました。」

「そうか・・・・・じゃあ俺が敷くから茶を淹れて床へ持ってきてくれ。」

 その言葉と同時に寿江はようやく為右衛門の太く、力強い腕から開放されたのだった。



 寿江が茶を淹れて二階の寝室へ入るとすでに布団が敷かれており、寝間着に着替えた為右衛門が座って待っていた。

「旦那様。お番茶、お待たせしました。」

 寿江は恥ずかしげにはにかんだ笑みを浮かべながら番茶を差し出した。為右衛門はあまり濃茶を好まず、あえて自分用に薄く淹れることができる番茶を用意させるほどである。最初こそ戸惑った寿江であったが、今ではすっかり慣れっこになって何も言われなければ番茶を出すようになっていた。

「ああ、ありがとう。雨の中色々やらされたんですっかり身体が冷えきってしまってな。」

 雨の中、こき使われたことをぼやきながら為右衛門は番茶を一口すすった。その暖かさはじんわりと身体に染み入ってゆくが、それよりも熱く、魅惑的な存在の方にすでに心は囚われている。

「寿江、今日は一人留守番をさせてしまって済まなかったな。怖かったか?」

 為右衛門は眼の前にいる寿江を抱き寄せながら尋ねた。

「はい。御用人様のところの中間が藩邸の外に様子を見に行ったきり帰ってまいりませんし、藩邸内にも色々なものが飛び込んでまいりますし・・・・・あんっ。」

 寿江を抱き寄せた瞬間為右衛門が耳朶を軽く甘噛みし、寿江は思わず甘ったるい声を上げてしまう。それに気を良くした為右衛門は寿江の胸元の手を差し入れながらちろちろと耳朶を舌先で嬲り始めた。

「確かに海沿いでは風が強いからな・・・・・怖い思いをさせて済まなかった。せめて一緒にいる時だけはその事を忘れさせてやる。」

 為右衛門は寿江を安心させるように優しく囁きながら胡座の上に寿江を座らせる。寿江の臀部には為右衛門の逸物が当たり、着物越しでも力を漲らせているのがはっきりと判った。それに気が付いた寿江は恥ずかしげに尻をずらそうとするが、それが却って刺激になってしまい、為右衛門の逸物はさらに硬さを増してしまう。

「寿江、そんなに物欲しげに尻を揺するな。今夜は嫌というほどお前が欲しているものをくれてやるから。」

 背後から回された為右衛門の太い腕が寿江の胸と腰に回される。そして右手は袷から胸許へ潜り込み、左手は腰からするりと太腿辺りに滑り降りると着物の裾を掴み、思いっきりそれを腰まで捲り上げた。

「あ・・・・・!」

 あまりの素早さに思わず声を上げてしまった寿江だったが、その声に対して囁かれた為右衛門の一言にその声を飲み込んでしまう。

「大風で声がかき消されているからか?それとも親父殿がいないからか・・・・・今日は特に色っぽく啼くな、寿江。ますます声を上げさせたくなるじゃないか。」

 耳朶に吹きこまれたその言葉は強く、甘い痺れとなって寿江の全身を駆け巡った。



UP DATE 2012.8.8

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ようやく準主役とも言える為右衛門夫婦の話を書くことができましたvこの二人、仲は良いんですけど子供がねぇ・・・・・為右衛門が道場&藩のお仕事で忙しいのと寿江が意外と気ぃ使いなのとでなかなか恵まれないようです。(一部の噂では『仲が良すぎて=○○が過ぎて子種が少なくなっているんじゃ?』という話も^^;)

そんな二人ですが、偶然にも八朔の日にぶち当たってしまった大風=台風の為、二人っきりで一夜を過ごすことになってしまいました^^この台風、実は史実でして深川にあった三十三間堂はこの時の台風で壊れてしまったとか・・・かなり大きかったものです。勿論大名たちも家臣総動員で救援活動を行ったと思われますが、よりによって八朔、つまり皆が顔を合わせる日だなんて・・・(苦笑)絶対に見栄の張り合いになったんだろうな~と勝手に妄想させて頂きましたv

次回更新予定は8/14、台風に翻弄される木の葉のよ~に寿江が為右衛門に翻弄される予定ですv勿論★付きですよ~(^◇^)
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