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「紅柊(R-15~大人向け)」
癸巳・秋冬の章

八朔の嵐・其の参~天保四年八月の秘め事

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ちゅんちゅんと元気の良い雀の声がどこからか聞こえてくる。雀が鳴いているくらいだから天気は良いのだろうな、と胸に寄り添う寿江を抱きしめながら為右衛門は思った。それよりもいったい今は何刻なのだろうか--------眠たさで瞼は開かないものの、ふと気になりだす。その時であった。

「・・・・・にうえ!兄上、無事ですか!」

 心地良いまどろみが不意に弟の声で破られる。耳に飛び込んできた切羽詰まったその声に為右衛門は思わず飛び起きた。

「しまった!寝過ごしたか・・・・・寿江、起きろ!五三郎の奴が帰ってきた!」

 為右衛門は隣で眠っている寿江を揺すり起こすと慌てて階下に声をかける。

「五三郎か?俺達は大丈夫だ!親父殿はどうした?」

 昨夜の情事によって寝乱れた寝間着を整えながら為右衛門は階下へ降りてゆく。それに気が付いた五三郎は為右衛門を見上げながらほっとした笑みを浮かべた。

「あ、兄上。お早うございます。父上はまだ平河町で寝込んでおりますが・・・・・それより昨日は大丈夫でしたか?藩邸の南側の塀が壊れるし、殿の持物がしまってある納戸も屋根が吹き飛ばされて水浸しになるし・・・・・あれじゃあ江戸家老がどんなお咎めを受けるか先が思いやられます。」

 軽い溜息と共に五三郎は肩を竦める。

「納戸が・・・・・そんなにひどい被害が出ているのか?」

 為右衛門の言葉に五三郎が怪訝そうな表情を浮かべた。

「え・・・・・兄上、ご存知無いんですか?外はすごい騒ぎになっていますよ。こちらに来る途中でも加賀や紀州の家中に死者が出たとか、深川の三十三間堂がひっちゃかめっちゃかだとか噂が飛び交っていますし・・・・・そうそう、昨日外の様子を見に行った佐久間さんの中間がそこの浜辺に打ち上げられたそうです。」

 五三郎の言葉に為右衛門はしまった、という表情を浮かべる。

「そうか。昨日寿江も言っていたな・・・・・さすがに顔を出さないとまずいか。」

「あの・・・・・義姉上は?」

 二階に気配は感じるものの、なかなか階下に降りてこない寿江を不審に思い、五三郎は為右衛門に尋ねたが、それに対する為右衛門の答えは素っ気ないものだった。

「上で寝ている。五三郎、お前は平河町の親父のところへ戻ってくれ。俺は身支度を整えてから邸内の片付けに出向く。道場には今日は休むと伝えておいてくれ。」

 どうやらあまり話したくないらしい。その瞬間、五三郎はある事に気が付き、為右衛門の素っ気ない言動の理由を理解した。

「承知しました、兄上。そうそう、それと・・・・・。」

 五三郎が不意に声を落とし、にやりと笑う。

「襟元の意味深な紅色の跡、気をつけた方が良いですよ。ちょっと襟元がずれるとかなり目立ちますから。」

 その瞬間、為右衛門の顔が耳まで真っ赤になる。それは昨晩寿江によって付けられた痕跡だった。為右衛門自身も寿江に対しかなり激しい愛撫を施した所為もあるのだが、その煽りで寿江がつけてしまったものらしい。なまじ日に焼けていない場所だけにその紅の痕跡はかなり目立つものだった。

「どうやら外の嵐より家の中の嵐のほうが激しかったみたいですね、兄上。道理で外の騒ぎに気が付かない筈・・・・・。」

「よ、余計なお世話だ!とっとと道場に戻れ、五三郎!」

 半分照れ隠しの為右衛門の剣幕が五三郎に襲いかかるが、いつもの迫力はさすがにない。

「はいはい、承知しました。じゃあ道場に伝えておきます!」

 それだけ言い残すと五三郎は踵を返し、素早く家を飛び出した。あの様子では間違いなく芳太郎や猶次郎らにこの話は伝わってしまうだろう。為右衛門は不満そうに軽く舌打ちをする。

「まったくガキのくせに・・・・・!」

「旦那様・・・・・?」

 五三郎が出ていったのを確認したのか、恐る恐る寿江が二階から声をかけてきた。それに気が付いた為右衛門は柔らかい声音で寿江に語りかける。

「寿江、どうやら親父殿はもう少し平河町に世話になるようだ。その間に髪を洗っておけるだろう。俺は外の片付けに行ってくるから。」

 その一言に寿江ははっとし、自分の髪を押さえた。その髪はかなり崩れていて髷の体をなしていない。

「お気遣い・・・・・ありがとうございます、旦那様。」

 たとえ義父が帰ってこれる状態だとしても為右衛門は何だかんだ理由をつけて時間を稼いでくれたに違いない。その心遣いが嬉しくて寿江は礼を言った。



 為右衛門が急いで身支度を整え外に飛び出した後、寿江は盥桶に湯を張って髪の毛を洗い始めた。諸肌を脱いだ上半身には無数の紅色の跡--------為右衛門の愛撫の痕跡が残っている。そんな痕跡一つ一つに昨晩の情事を感じつつ、ぐずぐずになった丸髷を解き、寿江は髪を洗い始めた。絡まった髪はなかなかいうことを聞いてくれず苦戦したが、何とか絡まった髪を解きほぐし鬢付油を流し終わった頃、為右衛門が帰宅した。

「旦那様、お帰りなさいませ。思ったより早かったんですね。」

 思っていた以上に早い帰宅に目を丸くしながら、寿江は濡れた髪の毛を盥の上で絞る。滴る雫が秋の日差しに輝き、その美しさに為右衛門は目を細めた。

「ああ。俺が出向いた時はあらかた片付いていてな。出遅れたよ。」

 脱いでいた着物に袖を通した後、手拭いで髪を拭き始めた寿江の前に座り、為右衛門は苦笑いを浮かべる。

「どうやら昨日の夜半には風雨は止んでいたみたいで、皆は日の出前から片づけに出ていたそうだ。」

「すみません、私が起きていれば・・・・・。」

 寿江は髪の毛を拭く手を止め恐縮するが、為右衛門は気にする風もなくからからと笑った。

「気にするな。昨日の晩は少々頑張りすぎたし、あれで起きろという方が無理だろう。」

 そう言いながら為右衛門は寿江を抱き寄せ、まだ雫が垂れる髪をそっと手にとった。

「さすがに乾くまで髷は結わないんだろう?」

 微かに熱を帯びたその質問に寿江は頬を桜色に染める。

「ええ、丸一日かかりますから・・・・・今夜にでも結おうかと。」

 はにかみながら答える寿江に対し、為右衛門は耳許で『その必要はない』と囁く。

「明日の朝でいいだろう。親父殿が帰ってきても昨日の嵐で髪が崩れたとでも言えば許してくれるさ。」

 そう言いながら為右衛門は手にしていた髪を手放すと、寿江の胸許をくつろげ、鎖骨近くに唇を寄せて強く吸った。すると寿江の雪をも欺く白肌に、もう一つ紅色の花が咲きほこる。

「・・・・・昨日のお返した。お前が付けた跡を五三郎の奴が目ざとく見つけ出した。」

 その瞬間、寿江は顔を真っ赤に--------先ほどの為右衛門以上に、耳朶から首筋まで真っ赤に染まった。

「も・・・・・申し訳・・・・・。」

「だからこれはお仕置きだ。ここならそう簡単に隠せないだろう。」

 為右衛門はからかうように囁くと、今度は首筋に--------着物では絶対に隠し切れない部分に唇を寄せて強く吸った。為右衛門の意図に気が付いた寿江は慌てて為右衛門の行動を辞めさせようとする。

「だ・・・・・だめ・・・・・ですってば、旦那様。そんなところに・・・・・!」

 寿江は為右衛門を引き離そうとするが細身ながら大柄な男はびくともせず、さらにもう一箇所、紅色の交情の印を寿江の首筋に刻み付けた。真っ白な首筋に刻印された紅色の印は、まるで彫物のようにはっきりと浮かび上がる。

「・・・・・虫に喰われたことにしておけばいいだろう。大して変わらないし。」

 そうは言うものの為右衛門が付けた交情の印ははっきりと唇で吸った形をしている。それは寿江の身体のあちらこちらに付けられたものと同じものであった。

「そんな・・・・・見る人が見ればそんな誤魔化し、通用いたしません。」

 恨めしげに為右衛門を見上げる寿江に為右衛門は笑いかける。

「大丈夫。おおっぴらに言い出す奴なんてこの藩邸内にはいないさ。」

 そう言いながら、為右衛門は寿江の胸許をさらにはだけて形の良い乳房を顕わにする。そして柔らかな双丘に顔を埋めチロチロと舌を這わせ始めた。その愛撫の心地よさに寿江は抵抗を止めてしまい、陶然と瞼を閉じる。

「・・・・・覚悟しておけよ、寿江。洗い髪で寝ることなんて滅多に無いことなんだから。」

 髪が崩れるのを心配しなくて良い分、寿江を貪ることに集中できると為右衛門は囁いた。さすがに今夜は父親の五左衛門や五三郎が帰ってくるだろうが、それまでもう暫く時間はあると為右衛門は寿江を押し倒す。

「もう・・・・・知りません。」

 まるで新婚当初のように自分を求める為右衛門に呆れながらもまんざらではなく、寿江も為右衛門の背中に腕を回した。



 雀の声が響く抜けるような青空の下、押し殺した声が部屋の中に篭る。互いを求める為右衛門と寿江の情事は今暫く続きそうである。



UP DATE 2012.8.22

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案の定寝過ごしてしまった為右衛門夫婦でございます(^_^;)まぁ、嵐に紛れて散々やらかしておりましたからねぇ・・・・・そりゃ寝過ごすでしょう。幸い夫婦の寝室が二階だということと、五三郎が『もしかしたら為右衛門たちに何かあったのでは?』と恐る恐る入ってきたことで寝乱れた現場に踏み込まれることはありませんでしたが・・・・・でも為右衛門に付けられてしまったキスマークはしっかり五三郎に見つかってしまいました(爆)せめて日焼けしている部分だったら目立たなかったのかもしれませんが(試し切りをしているので普通の武士より日焼けしている山田道場の門弟達、ちょっとやそっとのキスマークでは目立ちませんv)よりによって日に焼けていない部分、しかも見えるか見えないかというきわどい部分につけられちゃったものですからねぇ(^_^;)
とりあえず弟は怒鳴り散らし、キスマークを付けた張本人にはお返しのキスマークを返したというオチにさせていただきました。もう勝手にしてください(苦笑)

次週は猫絵師・国芳9月話を、紅柊9月話は六月話『黴雨の盗賊』の続編を書かせて頂きますv
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