FC2ブログ

「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第四章

夏虫~新選組異聞~ 第四章 第一話 伊東甲子太郎、参る・其の壹

 ←烏のまかない処~其の六十八・ズゴックとうふ →烏のがらくた箱~その百二十九・ほぼ日手帳、キタ━(゚∀゚)━!
闇に沈んだ京の町を木枯らしが吹き抜けてゆく。そんな中、背の高い男が壬生に向かって足早に歩を進めていた。腰に二本を挿しているところを見るとどうやら武士らしい。攘夷志士にしても幕府の役人にしても数人で行動を共にする事が当たり前の身分だけに、武士の単独行動はいやがうえにも人目を引いてしまう。だが、男はそんな事を気にかけるでもなく足早に先を急ぐ。

「う~ん・・・・・だいぶ寒くなってきてしまいましたね。土方さんじゃないけどこれじゃあ風邪を引いてしまいそうです。」

 予想していた以上の冷え込みにぼやきながら沖田は首を竦めた。行儀悪く懐手にした掌には小夜からの結び文が握られている。その掌と胸のあたりはじんわりと暖かさを感じるが、やはり京都の寒さには敵わない。こんな事で風邪をひいては副長助勤失格と、沖田は大急ぎで屯所へ戻った。

「沖田、ただ今戻りまし・・・・・おや?」

 本来ならすでに夕餉も済んでおり、夜勤の隊士以外、皆明日に備えて身体を休めている筈の屯所が何故か騒がしい。

「あの声は・・・・・まさか!」

 よくよく耳を澄ますと、本来聞こえてはならない筈の人物の声が沖田の耳に飛び込んできたのである。その声に沖田の表情が強張った。

「おら、その布団はそっちに運び込め!膳は足りているんだろうな?馬鹿野郎!その布団はそっちじゃねぇだろう!一気に隊士が二十四名も、しかも一人は大物なんだぞ!ちんたらやってるんじゃねぇ!!」

 新選組一の人斬りと恐れられる沖田の表情さえ強張らせるその声―――――それは寝込んでいるはずの鬼の副長・土方の怒声であった。風邪のせいなのか、それとも怒鳴り散らしているせいか声がかなり枯れている。

「土方さん!何しているんですか!病人はおとなしく寝ていてください!でないとますますひどくなって寝込んだまま近藤先生をお迎えする羽目になりますよ!」

 沖田は慌てて土方の許へ駆け寄るが、土方はおとなしくなるどころか沖田をぎろりとひと睨みするなり怒鳴りつけた。

「だったら助勤どもが新入隊士受け入れの準備をしておきゃいいだろうが!まったくてめぇの仕事以外何もしやがらねぇで・・・・・ごほっげほっ!」

 怒鳴った拍子に激しく咳き込む土方の背中をさすりながら沖田は謝る。

「その点に関しては謝ります、申し訳ありませんでした。ところで山南さんはどちらに・・・・・?」

 山南がいれば土方をここまで自由にさせることはないだろうと沖田は土方に尋ねたが、その答えは沖田をさらに呆れさせた。

「ああ・・・・・ごほっ、八木さんちの方で指示を出してもらっている・・・・・ごほっごほっ。」

 咳き込みながら土方は八木邸の方を指し示した。そちらの方には伊東やその腹心達を案内する事は沖田も聞いている。きっと伊東と面識のある山南に任せた方が良いだろうと土方が山南に頼んだのに違いない。

「そうですか。山南さんにも手伝ってもらおうかと思ったら、すでにこき使われていたんですね。」

 土方の人使いの荒さに思わず溜息を漏らした沖田のその表情を土方は見逃さなかった。

「総司!最後の一言だけ余計だ!山南さんには・・・・・ごほっ!」

 その瞬間、土方が激しく咳き込む。

「ほらほら、もう寝ていてください。近藤先生が帰ってきた時寝込まれている方が困るんですから・・・・・あ、山南さん!」

 どうやら八木邸の方が一段落したらしい。山南が隊士達数名を引き連れて前川邸に帰ってきた。

「土方くん、八木さんの家の方は片付いた。こっちも私がやるから君はもう休んでいてくれ。でないと、いざという時この腕では役にたたないんだから。」

 冗談めかしながらそう言うと、山南は未だ怪我の影響が残る自らの左腕をぽんぽんと叩く。岩城升屋事件で受けた傷は極めて深く、山南は『剣士』としては全く役に立たなくなっていた。だが、それだからこそ屯所内での事はできるだけ自分がやろうと山南は精力的に動き回っているのだ。

「すまねぇ、山南さん・・・・・ごほっ。あとは、頼んだ。」

 土方は申し訳なさそうに山南に頼むと、咳き込みながら副長室へ戻っていった。

「・・・・・まぁ、伊東さんに下手なところを見られたくない気持ちは判らなくはないんだけどね。」

 土方の姿が完全に消えたのを見計らって山南がぽつり、と呟く。その呟きに沖田も思わず頷いてしまった。相手は土方と同い年とはいえ名門道場の道場主である。片や土方は田舎剣術の目録取りでしかないという引け目もあるだろうし、池田屋事変など数々の手柄を立ててきた自負もあるだろう。ここまで苦労を重ね、培ってきた『新選組』を見くびられたくないという矜持が土方に無理をさせているに違いないと沖田も感じていた。

「ところで・・・・・山南さんは伊東さんの事をご存知なんですよね?」

「ああ、江戸にいた時に何度か面識は・・・・・。」

 沖田の質問に山南は口篭る。その歯切れの悪さに沖田は嫌な予感を覚えた。

「山南さん・・・・・何か引っかかるところがあるんですか?」

 沖田の鋭い質問に、山南は苦笑を浮かべながら頭を掻く。

「また答えるのに困るような質問を・・・・・総司はそういうところが鋭いから困るよ。」

 山南は心の底から困ったような表情を浮かべながら言葉を続けた。

「引っかかるも何も、伊東さんと土方くんはまるで逆の性格だから。衝突は覚悟しておいたほうがいいだろう。」

「逆・・・・・とは?」

 まるで空をつかむような山南の比喩に、沖田はさらに具体的な話をと促す。

「伊東さんは良く言えば理想主義、悪く言えば夢見がちというか・・・・・現実を真正面から見るのが苦手な人なんだよ。」

 山南の伊東評を聞き、沖田もようやく納得した。

「なるほど、それじゃあ確実に衝突はありますね・・・・・土方さんはこれ以上ないくらい現実重視の人ですから。芹沢さんと付き合ってからますますその傾向は強くなっていますし、私も覚悟はしておきます。」

 沖田は去年のことを思い出しながら軽い溜息を吐いた。確かに理想は大事だが、それだけでは動けないことが現実には多々ある。実際、新選組という、けっして大きな組織でないにも拘わらず活動資金は必要だし、その工面を当時局長だった芹沢自らが行なっていたのだ。
 普通であれば部下に『汚れ役』を押し付けるところを自ら引き受け、今の礎を作ったのは他でもない芹沢の現実主義だった。それを副長として一番近くで見ていた土方が影響を受けないはずがない。
 近藤に変わり隊の汚れ役を一手に引き受け『鬼の副長』と恐れられるようになったのはひとえに芹沢から引き継いだ現実主義的な考え方である。つまり、土方と伊東は水と油のように相反する考えの持ち主と言い切っていいだろう。

「まぁ、実際現場に付いたら理想云々とは言っていられないだろうけどね。もし伊東さんが隊で上手くやっていけるようだったら・・・・・。」

「その話は止めてくださいね、山南さん。あなたがいなければ配下の隊士達の不満を拾い上げてやることはできませんし、何よりも周囲との関係に障害がでますから。」

 辞めるかも、と言いかけた山南の言葉を沖田は遮った。これは左腕が効かなくなった頃から山南が何度も打診していることだ。しかし、剣士として役に立たなくなった山南を近藤や土方は強く引き止め、『総長』という役職までわざわざ山南の為に作ってしまったほどである。
 二人が山南を新選組に留めておく理由―――――それはひとえに山南の人柄、それに尽きる。何かと評判の悪い新選組の中で山南の評判はすこぶる良かったし、隊士達の受け皿にもなっていた。剣士として使い物にはならないかもしれないが、隊をまとめ外部との摩擦を出来るだけ少なくするという点では山南は必要不可欠な存在であり、隊にいてもらわなくては困る人物なのである。

「ははは、やはりそう簡単にやめさせて貰えそうもないな。新選組に入隊したら最後、骨の髄まで搾り取られるとはよく言ったものだ!」

 山南は冗談めかしながら大声で笑った。だが、これからは今まで以上に山南の役割が増えることを沖田も、そして山南本人も理解していた。

伊東甲子太郎と近藤派との橋渡し―――――

 北辰一刀流の流れをくむ名門道場主が、田舎剣術の道場主である近藤の下にいつまでも大人しく付いてくるとは思えない。時間が経過するにつれてその違いが露わになり、確執が生まれるのは時間の問題だろうし、伊東による新選組の乗っ取りも最悪考えられる。そこで必要になってくるのが山南だった。互いの良い部分も悪い部分も熟知している山南なら間に入っての摺合をしやすくなるのではないか―――――土方のそんな思惑を山南も沖田も感じていた。

「まぁ、伊東さんも聡明な人だからね。それほど諍いを心配することは無いと思うんだが・・・・・。」

 その山南の声は心なしか力なく沖田には聞こえた。



 土方が寝込む中、辛うじて新入隊士の分の寝床や膳は確保することができた。そして十月二十七日昼過ぎ、とうとう近藤達が屯所に到着したのである。

「近藤先生、お帰りなさい!」

 幸いな事にこの日非番だった沖田は真っ先に近藤を出迎えた。

「おお、総司か!変わったことは無かったか?」

 疲れた様子を一切見せず、近藤は満面の笑みで沖田に尋ねる。

「そうですね、三日前に土方さんが寝込んだくらいで特に変わったことは・・・・・痛っ!」

 近藤に語りかけた沖田が頭を抱えて蹲り、その後ろには拳を握りしめた土方が立っていた。

「とっくに治った風邪の事なんざいちいち近藤さんに報告するんじゃねぇ!ガキじゃあるめぇし!」

 威勢よく沖田に怒鳴りつけた土方だったが、その声はやや鼻にかかっており明らかに掠れていた。その声を聞いて近藤が心配そうな表情を浮かべる。

「大丈夫か、歳。やはり人数が少なくて無理が・・・・・。」

「だからこそ近藤さん、あんた自ら江戸くんだりまで出向いて隊士を連れてきたんだろうが。」

 土方は近藤に対してニヤリと笑うと、その背後に連なっている新入隊士達を見回した。

「・・・・・おい、近藤さん?」

 不意に土方が小声になる。

「何だ?」

「伊東甲子太郎、ってぇ奴はどこだ?それらしい奴が見当たらないんだが。」

 江戸からの連絡では二十四名と聞いていた新入隊士が二十名を切っている。その中にはどう見ても伊東甲子太郎らしき人物がいないのだ。万が一、本人がいたらまずいと思い、土方は小声になったが、近藤は土方の質問を聞くなり普通の声音に戻った。

「ああ、伊東さんなら明日道場の門弟達と共にこちらに到着する事になっている。」

「はぁ?」

 あまりにも突拍子もない近藤の答えに、土方は思わず大声を上げてしまう。

「あれ、連絡していなかったか?伊東さんは道場を閉めてこちらに来るから、その挨拶回りでどうしても遅くなると。こっちはこっちで会津藩との約束の期日があったから先に出てきた。それでも出てくるときは三日ほど差があったのをここまで縮めてはくれたが、どうしても一日だけ詰められなくて・・・・・おい、歳!」

 近藤の言葉に気が抜けてしまった土方は不意に目眩を覚え、へなへなと近藤に倒れ掛かってしまった。



UP DATE 2012.10.12

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)





『夏虫』、ようやく幕末へと戻りましたvここを書き始めてようやく『あ~新選組♪』って感じですかね~^^

小夜からの手紙を握りしめ、屯所に戻った沖田を待っていたのは新入隊士(というか伊東甲子太郎・笑)を迎えるための準備をガラガラ声で指示している鬼の副長の姿でした(^o^)まぁ、助勤達も何もしていなかった、ってことは無いんでしょうけど、土方にとってはまだまだ『甘い』ものだったんでしょうね(^_^;)鳴り物入りでやってくる『お客』に対して隙を見せたくない男ゴロロ、理解してやってください^^
それだけ頑張った土方ですが、肝心の伊東派はやってこず・・・・・翌日になれば間違い無く局長帰還祝いの宴会で前川邸も八木邸も荒れ放題になるでしょうから、ある意味歳の苦労は水の泡となったも同然です(爆)果たして八木邸くらいはきれいにできるんでしょうかねぇ(^_^;)こればかりは次週になってみないと私も解りませんv

一方山南さんは片腕が動かなくなってしまったものの、隊内での重要性はますます大きくなってきております。そもそも病気だったにしろ腕が動かなくなってしまったにしろ、剣士や兵士として使い物にならなくなってしまった人物がそのまま隊に属していたというのはやはり必要とされていたからでしょう。ただ、この事が近藤派と伊東派の間で板挟みとなってしまう原因にもなってしまうんですよね~><
第四章は山南敬助の苦しみの章になってしまいそうですが、お付き合いのほどよろしくお願いしますね(*^_^*)

次回更新予定は10/19、ようやく伊東甲子太郎御一行様到着・・・の予定です、多分(^_^;)あとその前にちょっとした波乱がありそうです^^
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のまかない処~其の六十八・ズゴックとうふ】へ  【烏のがらくた箱~その百二十九・ほぼ日手帳、キタ━(゚∀゚)━!】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のまかない処~其の六十八・ズゴックとうふ】へ
  • 【烏のがらくた箱~その百二十九・ほぼ日手帳、キタ━(゚∀゚)━!】へ