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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第四章

夏虫~新選組異聞~ 第四章 第六話 苦い想い・其の貳

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月が変わって十一月一日、近藤らが持ち帰ってきた手紙の返事や無事京都へ到着したという報告の手紙などをまとめて出すため、手紙を認めた者がその手紙を副長室に持ってきていた。それは副長助勤達も同様で、仕事の合間を縫って副長室へやってきては手紙を渡す。

「じゃあ土方さん、こちらお願いします・・・・・大した務めもしていないんで気がひけるんですけどねぇ。」

 これから巡察という出で立ちの沖田は副長室に入るなり、姉二人と日野で新選組を支えてくれている人への手紙数通を土方に差し出した。沖田本人は卑下して『大した務めもしていない』というものの、池田屋で倒れてしまった以外沖田の仕事ぶりはなかなかのものである。土方もどれだけ助けられたか判らない。それもこれも『女』ゆえの頑張りだったのだろうと土方は思いつつ、それは黙っていた。

「ところで土方さん、その鉄扇は・・・・・?」

 手紙を土方に渡した沖田が、土方の文机に置かれていた鉄扇を目ざとく見つけ尋ねる。

「ああ・・・・・ちょっと日野に贈ろうと思ってな。」

 ちょっと言葉を濁しながら鉄扇に手を置いた土方に対し、沖田は呆れたように溜息を吐いた。

「芹沢さんじゃあるまいし・・・・・何もそんな物騒なものを送らなくったって、土方さんの活躍は判っているでしょう。じゃあ私は巡察に行ってきます。」

 沖田は土方に一礼すると、副長室を後にした。だが、鉄扇に目を取られて沖田はその影に隠れていた小さな贈り物には気が付かなかったのである。



 沖田の足音が遠ざかるのを確認すると、土方は鉄扇の横に置かれていた小さな包みを手に取りそれを開けた。すると黒地に金蒔絵の入った櫛が現れる。小振りであったがその細工は極めて緻密で、伊勢物語『筒井筒』のいち場面をあしらっている。その丁寧な仕事ぶりから、その櫛は庶民の娘が挿すものでは無いことは一目見て明らかであった。

「まぁ・・・・・あいつの趣味じゃねぇが、仕方ねぇか。」

 それは昨日、土方が細工物を扱っている店に押しかけ、半ば強引に手に入れた店で一番良い細工の櫛である。勿論この櫛は琴に送るために手に入れたもので、あえて櫛にしたのにも理由があった。
 この時代、男が女に櫛を贈るということは特別な意味―――――求婚の意味がある。勿論許嫁であるから以前も櫛を送ったことはあるが、それはあくまでも『土方家』からのものであり、土方個人が送ったものではなかった。だが、今度は違う。

『どんなに他に心を動かされても、最後に帰るのはおまえの許だ。』

 その櫛には土方の本気が込められていた。今回手紙が来なかったのは、前回出した手紙の悪ふざけに拗ねただけ―――――土方としてはそう信じたかった。


月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我が身ひとつは もとの身にして


 土方は櫛を包んでいた包の裏に伊勢物語の有名な和歌を認めると、再び櫛を包みなおす。男は最終的に元の女のもとへ帰るのだから・・・・・言い訳がましいと思いつつ、土方は琴への手紙に自分のほろ苦い想いを込めた櫛を添えた。



 土方に手紙を渡した後、沖田は小夜との待ち合わせの場所である御霊神社へと向かった。今日は会う約束の日ではないが、ここ最近少々気になることがあった。どうも自分たちの結び文の幾つかが何者かに盗まれているようなのだ。それに気がついたのはつい十日ほど前のことであった。出会う約束の日の前日、いつもなら必ず結ばれている結び文が無く、てっきり体調を壊していると思っていた小夜がひょっこり御霊神社にやってきたのがきっかけである。

「ああ、良かった。昨日は文が無かったので、てっきり風邪でも引いてしまったのかと・・・・・。」

「えっ?昨日・・・・・うち、結び文しておきましたけど。」

 小夜は怪訝そうに眉を顰めた。

「え・・・・それは本当ですか?」

 別に結んでおかなくてはならないと約束した文ではないが、小夜は必ず毎日何かしら書いて結び文を残してくれている。それだけに小夜が嘘を付いているとは絶対に思えない。

「へぇ。風邪をひいても弟や妹に頼みますし・・・・・何でやろ?」

 いくら考えても手紙が無くなった理由が判らないと小夜は小首を傾げた。それは沖田も同様で、そもそもここに結び文をして手紙をやり取りしている事を知っている人間もごく限られていると、低く唸った。

「そもそもこの結び文のことはうちでは斎藤さんくらいだし・・・・・お小夜さんのところでも弟さんと妹さんくらいですか?」

「へぇ。すぐ下の弟の伸吉と妹の真夜くらいやし・・・・・せやけど、一体誰が。」

 うす気味が悪いと小夜は自らの身体を抱きしめる。そんな小夜の怯えを和らげるように沖田はあえて笑い飛ばした。

「きっと子供らの悪戯でしょう。ああいうものに興味を示すものですから。次からは子供の手の届かない、もう少し高い場所に結んでおきましょう。」

 だが、そんな沖田の言葉にも拘わらず、高い場所に結んだ結び文も盗まれることが度々あった。明らかに何者かが悪意を持って盗っている・・・・・その場に行ったところで犯人に出くわすとは思えない。しかし近くの者に話を聞くことはできるかもしれないと沖田は清水寺方面へと向かっていった。



 いつもの御霊神社の前に沖田が到着すると、そこには見慣れないかわたの少年が佇んでいた。ボロを着て、薄汚れているがその顔立ちは意外なほどに整っており、目の煌めきには知性さえ感じる。もしかしたらこの賢そうな少年が何か見ているかもしれない、そう思って沖田が少年に声をかけようとしたその時である。

「お侍はん、あんた・・・・・新選組の沖田総司か?」

 声変わりもしていない、甲高い声でかわたの少年は沖田に尋ねる。その声音は可愛らしくあるものの、明らかに敵意に満ちたものだった。

「ええ、そうですけど・・・・・人に名を聞くのであれば自分も名乗るべきじゃないですか?」

 沖田は少年に穏やかに笑いかけながらもさり気なく左手を鯉口に当てる。眼の前にいる少年が何者かは判らないが、もしかしたら沖田が殺した不逞浪士の子息の変装かもしれないし、近くに仲間が隠れているかもしれない。子供とはいえ油断ができないのが今の世である。沖田は周囲に気を配りながら少年をじっと見つめる。そんな視線に負けじと少年は沖田を睨みつけながら声をあげた。

「わては・・・・・伸吉いうねん!小夜姉ちゃんの弟や!」

 思いもよらない少年のその言葉に沖田は呆気にとられ、目を丸くする。

「お小夜さんの・・・・・弟?」

「馴れ馴れしく姉ちゃんの名前を口にしないでや!」

 沖田が小夜の名を口にした瞬間、少年は苛立たしげに声を荒らげた。

「姉ちゃんをあんたの慰み者にはさせへんで!もう二度と姉ちゃんに会わんといて!」

 そのあまりの剣幕に沖田は言葉を失った。確かに沖田としても許嫁の約束もしていないのに小夜を呼び出している後ろ暗さはある。いつ、どちらかの関係者が二人の関係に反対を唱えてもおかしくないのだ。少年とはいえ、家族の反対にあっては小夜との逢瀬もここまでかもしれない・・・・・沖田が覚悟を決め、口を開きかけたその時である。

「こら、伸吉!沖田はんになんてことを言うんや!」

 不意に小夜が路地から現れ、少年の耳を思いっきり引っ張りあげたのだ。その剣幕に耳を引っ張りあげられた少年は勿論、沖田もびっくりする。

「痛いっ!だって姉ちゃんが壬生狼なんかと・・・・・。」

「だってやないでしょう!あんたなん?勝手に結び文盗ったんは!」

 普段沖田に見せる、控えめで優しげな小夜とは打って変わり、弟の耳を引っ張って叱りつけるその姿は姉というより厳しい母親のようであった。その姿に沖田は昔、姉に叱られたことを思い出す。怒っている方は相手のためにと思うのだが怒られている方は堪ったものではない。なまじ怒られている方の気持ちが判るだけに、そろそろ自分が止めたほうがいいだろうと沖田は姉弟のやりとりに口を挟んだ。

「ねぇ、お小夜さん。もうそれくらいにしてあげましょうよ。」

「せやけど・・・・・。」

 宥める沖田に対し、小夜は弟の耳を引っ張ったまま躊躇いを見せる。姉として沖田に対して失礼を働いた弟を許すわけにはいかないと表情に現れていたが、沖田は穏やかに、そして辛抱強く小夜に訴える。

「弟さんだってお小夜さんが心配なのでしょうし、他の男に取られるのは面白く無いんでしょう。私だって姉の嫁入りにぐずったものですから。」

 さすがにそこまで言われては許さないわけにはいかない。小夜は弟の耳を引っ張ったまま一言、言い放った。

「伸吉!沖田はんに感謝しぃ!今度やったら一晩中村の杉の木に縛り付けるから覚えとき!」

 そう言って小夜はようやく伸吉の耳を離した。すると伸吉は沖田に謝るどころかあっかんべーと舌を出す。

「お前なんか大嫌いや~っ!」

 捨て台詞を残すと、小夜が叱りつける前にかわた村へと続く道へ消えていった。

「こら、伸吉!・・・・・ほんますんまへん。しつけがなってなくて。あとできつう叱っておきます。」

 小夜は頬を赤らめながら沖田に深々と頭を下げる。

「いえ、気にしないでください、お小夜さん。姉を奪われる弟の気持ちは痛いほど判りますから。」

 頭をなかなかあげようとしない小夜に沖田は頭をあげるよう促した。

「それよりも・・・・・もしかして私と逢うことでお小夜さんの立場が悪くなっているなんてこと、ありませんか?むしろそちらのほうが心配です。弟さんもその事を憂えているんじゃありませんか?」

 その瞬間小夜の表情は曇り、ちょっと考えた後口を開く。

「・・・・・沖田はんにお声をかけていただいた時から覚悟はしてたんですけど。思うていたより風当たりは強うなっているのはほんまです。」

 沖田に初めて見せる、苦い表情を浮かべながら小夜はぽつぽつと語りはじめた。



UP DATE 2012.11.16

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順風満帆にいっているように思えた沖田の恋にもちらほらと暗雲が見え始めてきたようです(><)今のところは小夜の弟の可愛い嫌がらせ程度ですが、小夜の口調からはまだ何かあるようで・・・こちらの恋にも甘いだけでなくほろ苦いものが含まれてきました。

そして苦さの極みといえば土方の恋でしょう(*^_^*)あらゆる贈り物に紛れ込ませ、とうとう琴に対して『櫛』を送ることになりましたv当時の櫛は今現在の指輪と同じような意味がありまして、結婚を考えている相手に送るものだったようです。簪を送るのとは訳が違う^^
さらに意匠として選ばせて頂きました『伊勢物語』の中の『筒井筒』、これは浮気な男をひたすら待ち続ける女性の話で、最終的にその一途な女性のもとに浮気男が戻ってくるという話です(かなり大雑把ですが^^;詳細はググってみてくださいませv)偶然だったとは思うのですが、手に入れた櫛が奇しくもそんな意味深な意匠だったのも何かの縁でしょうv文学青年?らしく伊勢物語に載っている和歌の一つを認め、『俺は変わっていないぞ!』と訴える作戦に出たようです(ちなみに今回載せた和歌は本当は女性が歌っているもののようですが、歳の心情にピッタリだったもので・笑)

次回更新は11/23、小夜のかわた村での立場、そして長州討伐に参加できないまま終わってしまった新選組の苦い想いを書けたらいいな~と思っております^^

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