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「短編小説」
猫絵師・国芳

猫絵師・国芳 其の弐拾肆・誠忠 義士肖像(最終回)

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「国芳先生!お願いですからいい加減仕上げてくださいな。この通り!」

版元の手代・由五郎が声を大にして国芳に頭を下げる。だが、国芳は聞いているのかいないのか自分が描いている絵にじっと視線を落としぶつぶつと何かつぶやき続けていた。

「う~ん、まだここのところがなぁ・・・・・ああ、由五郎さん、来てたのかい。」

ようやく由五郎の存在に気がついた国芳が、視線を上げる。だが、次の瞬間由五郎にとって青天の霹靂とも言える非情な言葉が国芳の口から飛び出した。

「悪いが三日後に来てくれねぇか。どうもしっくりこなくてよ。」

その瞬間、由五郎は今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、がっくりと膝をついた。



そもそもの始まりはおよそひと月前に遡る。版元との打ち合わせがてら、お茶屋遊びに出かけていた国芳が予定よりも一刻以上も早く帰宅したのだ。その顔は抑えきれない喜びに上気しており、草履を脱ぐのさえまだるっこいのか行儀悪く玄関に放り出して部屋に転がり込む。

「どうしたんだい、おまえさん。やけに早いご帰宅じゃないか。娼妓に振られたにしても早過ぎ・・・・・きゃあ!」

お滝が叫ぶのも無理は無い。何と国芳は弟子や娘たちの目もはばからすお滝に抱きついたのだ。国芳の腕の中でバタバタと暴れるお滝だったが、国芳は構うことなくお滝を抱きしめたまま興奮の理由を口にする。

「これがお茶屋にいられるかってぇんだ!とうとう俺にも注文が来たんだよ!!」

「い・・・・・一体何の注文だい?そもそも錦絵の注文なんざ掃いて捨てるほどあるだろうに。」

興奮状態の国芳をひっペがしながらお滝は呆れたように尋ねる。

「聞いて驚け、注文は注文でもな・・・・・『忠臣蔵』の注文なんだよ!!ああ、腕がウズウズする!」

それを聞いてお滝は国芳のはしゃぎっぷりをようやく納得した。どの時代も『男の子』というものは英雄に憧れるものであり、それは年齢の上下、身分の貴賎は一切関係ない。
国芳もまたしかりで昔から国芳は『忠臣蔵』を贔屓にしている。それだけに思い入れが強すぎて、自分からはなかなか版元に提案できずにいたが、今回は版元側から国芳に『忠臣蔵』をやらないかと提案してきたのである。

「俺はな、今までにない忠臣蔵を・・・・・これぞ国芳!って『忠臣蔵』を世の中に出すからな!おっと、こんな事をしちゃいられねぇ。『狙うは怨敵、吉良上野介ただ一人』っと!」

弟子達や娘らが呆れた視線で見つめる中、国芳は自らが『大星由良之助』にでもなったかのように意気揚々と仕事場へ入り込んだ。



それから一ヶ月後・・・・・。

「ねぇ、おまえさん。あんたのこだわりはわかるからさぁ、いい加減そろそろ仕上げたらどうだい?由五郎さんだって困ってるじゃないか。」

さすがに由五郎を気の毒に思ったお滝が国芳を促したが、国芳は気のない返事をしつつ資料である西洋絵画をじっと見つめていた。
『今までにない忠臣蔵を!』―――――そう意気込んだ国芳は手に入れることができる西洋絵画を片っ端から入手し、構図や配色を研究し始めたのである。今国芳が手にしているのは1682年オランダで出版されたニューホフ著『東西海陸紀行』である。その挿絵とそっくりな絵を若かりし頃に描いていたが、今回はそれとも違う絵である。
人物の顔立ちは浮世絵風に誇張されたものではなく、むしろ西洋画に近い現実的な描写であった。また表情も歌舞伎風ではなく日常のものに近いかもしれない。
そういった意味では『今までにない忠臣蔵』であるが、悲しいかな時間がかかりすぎる。何故なら一人を一枚で描いているので計四十七枚、それを自分が納得するまで手を加えるのだ。
否、かかりすぎるのは時間だけではない。資料などに費やした金額も半端ではなく、このままでは間違いなく年を越すことなどできないだろう。せめて描いた絵で稼いで出費の穴埋めをしてほしいものだが、いかんせん『売れずじ』の絵ではないこの絵では、人気の忠臣蔵ものとはいえ売上もたかが知れているだろう。お滝は何を質屋に入れようか算段し始める。

「勘弁して下さいよ、国芳先生。十二月十四日の忠臣蔵に間に合わなくなっちまう!それじゃああまりにも間抜け過ぎまさぁ!」

目に涙を浮かべながら由五郎は国芳に訴えるが、国芳は研究に夢中で全く動じる気配もない。

「版元さん、諦めておくんなさい。ああなるとうちの人はてこでも動きゃしないから。」

「版元のおじちゃん、諦めて。」

土下座をして頼み込む由五郎に対し、諦め口調でお滝が声をかけ、母親の真似をしてとりやよしまで追い打ちをかける。国芳一世一代の『忠臣蔵』、その完成はまだ暫くかかりそうであった。



UP DATE 2012.11.27

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猫絵師・国芳も丸2年、24回に渡ってお送りして参りましたが今回を持って最終回とさせて頂きました^^
ただ、この話が終わっても彼らは変わらず江戸の日常を暮らしていくんだろうな、ということであえて余韻というかまだまだ続くかも・・・・・という雰囲気を漂わせながらの終了ですが(^_^;)2年間に渡りお付き合いくださった皆々様、本当にありがとうございましたm(_ _)m


話は変わりまして内容に関してですが・・・・・何故『男の子』という生き物はヒーローがあんなに好きなんでしょうねぇ(-_-;)洋の東西、身分の貴賎、年齢等々一切かかわらず・・・・・そもそもヒーローごっこをして木から飛び降り足を骨折したり怪我をしたりするお馬鹿さんは殆どが男の子でしょう。ちなみにこの『男の子』の中には中年のおっさんも含まれます(友人が子供の前でイイトコ見せようとしてやらかしました・笑)
そして国芳もまたしかり・・・ただ、国芳の場合それを『絵』で表現することができますのでそちらで自らのヒーロー願望を満足させたのでしょう。今回取り上げました『誠忠 義士肖像』は他の『売れ筋』の絵とは違い、写実的・・・・・きっと新しいものへの実験も兼ねていたのかもしれません。こういう気持ちってものづくりに携わる人間なら誰もが持つ気持ちですので、そういった気持ちを具現化した国芳に敬意を評してこの作品を最後に取り上げさせて頂きましたv


来年の拍手文は以前実験的に書いた『Bad Taste』をベースに明治晩期を舞台にした話を書かせて頂きます。拍手文ですので軽い感じになるかと・・・・・宜しかったらお付き合いのほどお願いしますm(_ _)m
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